8月9日、The Decoderが「Google dismantles Deepmind and bets on a fresh start as Hassabis heads for the exit」と題した記事を公開した。GoogleがDeepMindの独立性を事実上失わせ、創業者デミス・ハサビスが近く退任する可能性があるというこの報道の核心にあるのは、「モデルで勝つ」か「インフラで普及させる」かというAI戦略の根本的な対立構造だ。
DeepMindはもはや「ただの一部門」
Guardianの報道によれば、元Googleマネージャーは「DeepMindが独立した組織として機能していた時代は終わった」と述べており、現役のDeepMind社員も同社を「Googleのただの一部門に過ぎない」と表現している。
日常的な業務はAI研究者のコライ・カヴクオール(Koray Kavukcuoglu)が米国から引き継ぐが、彼にCEOの肩書きは与えられない。DeepMindはもはや独自のCEOを持たない組織となった。
ハサビスについては、Pathfoundersが「ジェフ・ディーンと同時に退任したかったが、Googleが株価のさらなる急落を恐れて引き留めた」と報じている。ディーンの離脱とハサビスの役割変更が発表された際、すでに株価は下落していた。Googleはハサビスを「チェアマン」に昇格させることで、秩序ある退任への道筋を整えた格好だ。ハサビスは科学的研究や製薬スタートアップの**Isomorphic Labs**により多くの時間を充てる意向で、数ヶ月以内にDeepMindを完全に去る可能性があると報じられている。
ハサビスが実権から外れる中、Gemini関連のAI開発はすべてベイエリアに移管され、Google共同創業者のセルゲイ・ブリンがより大きな主導権を持つ見通しだ。ブリンはChatGPTの台頭でGoogleに「レッドアラート」が発令された際にすでに開発現場に復帰しており、その後Google BrainとDeepMindが統合されて「Google DeepMind」が誕生した経緯がある。「Gemini」というモデル名も、両組織の「双子(twin)」チームが共同プロジェクトで協力するという意図から生まれたものだ。
ただし、この統合時点からハサビス自身が再編に強い不満を抱いていたとも報じられており、今回の事態は長年くすぶっていた緊張関係の帰結とも読める。
「次のIBM」か「次のウェスティングハウス」か
この再編をどう評価するかで、業界の見方は大きく二つに割れている。
悲観論を展開するのはSemiAnalysisだ。同社はニュースレター「Gemini is Cooked but GCP is Cooking」(※有料レポートとして提供されており、一般公開されていない可能性がある)の中で、DeepMindはもはやフロンティアラボではないと断言している。その根拠は、長年にわたる過度に慎重なコンピューティング資源の配分と、官僚的でリスク回避的な組織文化だ。GoogleはChatGPT登場より前から高度なAIシステムを持っていたにもかかわらず、ユーザーへの届け方が遅すぎた。SemiAnalysisはこれをIBMがPC事業から撤退してメインフレームコンサルへ転落した事例や、Intelが大胆な投資を避けて既存事業を守ろうとして失敗した事例に重ねている。
さらに批判の核心として、Googleが自社チームにAI開発のリソースを与えるより、コンピューティング資源を外部に売ってクラウド収益を短期的に最大化していると指摘している。Geminiの年換算収益は2026年第2四半期時点で120億ドル。一方Google Cloudは、2027年末までにAIインフラ収益で730億ドル超、TPU販売でさらに1200億ドルを生み出すと予測されている。カネが動いているのはモデルではなくインフラ側だ。
楽観論を唱えるのはWeb 2.0の提唱者として知られるティム・オライリーだ。彼はSubstackの「Asimov's Addendum」の中で、Googleはモデルで勝つ競争ではなくインフラで技術を普及させる競争を意識的に選んでいると論じている。電球と最初の発電所を作ったのはエジソンだったが、交流電流で電力網を社会全体に広げて勝ったのはウェスティングハウスだったというのが彼の比喩だ。効率を重視した最新のGemini Flashモデル群はこの戦略と符合している。
モデル開発の躓きという現実
ただし、The Decoder自身はより率直な見方を示している。Googleはフロンティアモデルの訓練を試みたが、特にコーディング性能で他社に追いつけなかったというのが実情だというのだ。
元記事執筆時点(2026年8月)において、Gemini 3.1 Proはプレビュー段階にとどまっており、5月に6月リリースと発表されたGemini 3.5 Proは事実上棚上げされている状態だとThe Decoderは報じている。なお、これらのバージョン番号の詳細については元記事および公式発表を直接確認されたい。今回の大規模な組織再編は「インフラ優先への戦略転換」という側面だけでなく、前体制のモデル開発の失敗という側面もあるとThe Decoderは指摘している。
The Decoderの報道を総合すると、今回の再編はGoogleがインフラ事業での収益拡大を優先しながら、モデル開発の停滞という内部問題にも対処しようとした結果として位置づけられる。「インフラ優先」が意図的な戦略なのか、モデル競争での遅れを取り繕う後付けの説明なのかは、今後のGeminiシリーズの動向が答えを示すことになるだろう。
詳細はGoogle dismantles Deepmind and bets on a fresh start as Hassabis heads for the exitを参照していただきたい。