8月7日、WIREDが「The Hottest New AI Chatbot Is Just a Guy Answering Your Questions」と題した記事を公開した。この記事では、「AIチャットボット」を謳いながら実際には人間が手作業で質問に答えるプロジェクト「ChatTJB」について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
「AI」はAverage Individual(普通の人間)の略だった
ChatTJBの仕組みはシンプルだ。ユーザーが送った質問に、32歳のTucker Bryant本人が手で回答する。
LLMのファインチューニングもなければ、RAGもない。Bryant自身がキーボードを叩いて文章を書き、スケッチを求められれば紙に絵を描いてスキャンする。サングラスをかけたスカンク、スパゲッティを食べるカエル、サンフランシスコ市長のDavid Lurieをゴジラにしたイラストなどが実際に納品されている。
サンフランシスコに掲示した6,000ドルのビルボードには「AIを搭載した最先端チャットインターフェース」と書かれている。このAIの正体は"Artificial Intelligence"ではなく**"Average Individual"**(普通の個人)だ。
Bryantはもともとこのプロジェクトを「数日で終わる」と想定していた。ところが7月27日にビルボードが掲示されると話題が爆発し、8月6日時点で累計3万件超のクエリを受信。ピーク時には1時間あたり約5,000件のプロンプトが届いた。現在は3,000人超の応募者の中から選んだ10人のボランティアが対応を手伝っている。
なぜ作ったか:「認知的降伏」への危機感
Bryantの肩書きはパブリックスピーカー・アーティスト、元Googleプロジェクトマネージャー。ChatTJBのウェブサイト自体はLovable(AIを使ったノーコードWebアプリ構築ツール)でvibe-codingしており、自分をアンチAIとは位置づけていない。
彼がこのプロジェクトを作った動機は「cognitive surrender(認知的降伏)」への問題意識だ。AIの出力をほぼ無批判に受け入れる傾向が強まっている状況を指す概念で、Bryantは自分自身の経験を例に出す。
「サンフランシスコに7年住んでいるのに、65度(約18℃)の日に半袖か長袖かをLLMに聞いた。自分で天気への対処法を知っているはずなのに、LLMに委ねる方が楽に感じた。」
その体験が「自分は何をやっているんだ」という問いにつながり、ChatTJBというかたちになった。
「最悪のLLM」が見せた意外な側面
BryantはYouTubeでChatTJBを「史上最悪のLLM」と自ら称している。回答の質は保証されないし、絵も上手くない。WIREDが「朝型人間になるには?」と質問した時点では、記事執筆時までに返答は届いていなかった。
それでも、ユーザーの反応は予想外の方向に向かった。
最初はジョークとして使っていたユーザーが、実際の会話ができると気づくと、誕生日の過ごし方や夕食の献立など、より個人的な相談を送ってくるようになった。Bryantはこう解釈する。
「価値の源泉は専門的なアドバイスではなく、人間に話を聞いてもらうこと自体だと思う。非常に温かいものを感じる。」
マネタイズは意図的に「無価値」に設計
月額5ドルの「ChatTJB Pro」プランも存在するが、ウェブサイト上に「これは価値のないティアです」と明記されている。支払っても得られるのは「プロジェクトを支援したという事実」だけだ。現時点での加入者は約4人。6,000ドルのビルボード代(8月下旬まで掲示)にはほど遠い。だがBryantはそもそも収益化を目的にしていない。
生成AIツールの乱立とAIバブル崩壊への懸念が同時進行するいま、「普通の人間が手で答えるチャットボット」がサンフランシスコで話題を集めているという事実は、技術の外側からテクノロジーを見直す視点として、一定の皮肉を含んでいる。
詳細はThe Hottest New AI Chatbot Is Just a Guy Answering Your Questionsを参照していただきたい。