8月6日、Help Net Securityが「Discounted Claude access bought on the gray market may expose every prompt you send」と題した記事を公開した。グレーマーケットで販売される割引AI APIアクセスが、利用者のプロンプトを丸ごと第三者に露出させるリスクについて、セキュリティ企業Oktaによる調査をもとに詳しく紹介している。
「安く使えるClaude」の代償
今回の調査・報告を行ったのは、シングルサインオンや多要素認証サービスで知られるセキュリティ企業Oktaだ。Oktaは自社顧客の認証フローを守る立場から、AIサービスを悪用した不正アクセスや認証情報窃取の動向を継続的にモニタリングしており、今回のグレーマーケット調査もその一環として実施された。
Oktaは、アンダーグラウンドフォーラムやメッセージングプラットフォームで宣伝されている8件以上のサービスを発見した。これらはAnthropicのClaudeやOpenAIのGPTなどフロンティアAIモデルへの、割引または「無制限」トークンアクセスを謳っている。
Oktaの分析によれば、この需要の背景にあるのは主に中国のユーザー層だ。規制やプロバイダーの制限によりAnthropicやOpenAIのAPIに直接アクセスできないため、コスト面での優位性と一定の匿名性を求めてグレーマーケットへ流れている。
問題の核心は構造的なものだ。これらのサービスの多くはゲートウェイ型プロキシとして動作する。ユーザーのAPIリクエストを受け取り、自社で保有するアカウントを通じてAnthropicやGoogle等の本物のAPIに転送する仕組みだ。
「サービスがゲートウェイプロキシとして構成されている場合、サービス提供者はプロンプトの内容を完全に把握できる。プロンプトをモデルに転送しなければならないためだ。これはプライバシー上の懸念であり、サービス提供者が意図せずデータをリークしたり、販売したりする可能性がある」(Okta)
業務上の機密情報や個人情報をプロンプトに含めている場合、その内容がどこへ渡るか分からない状態になる。
Poison Claude:880人以上のユーザーを抱えるサービスの実態
Oktaが具体的に調査したサービスの一つが「Poison Claude」だ。元記事によれば、AnthropicのClaudeモデル複数バリアントへのアクセスを提供すると主張しているが、記載されているモデル名・バージョン番号については、現行のAnthropicの命名規則(Claude 3.5 Sonnet、Claude 4 Opusなど)と照合した上で元記事原文を直接確認されたい。

価格を抑える仕組みは明快だ。AWS Bedrockの新規アカウントに付与される100ドルのボーナスクレジットなどの無料枠を活用し、これら複数アカウントをプールとして管理。顧客からのリクエストをそのプールに流し、公式価格の**5〜15%**の価格でトークンを販売している。
決済はTether、USD Coin、Ethereum、Litecoin、Bitcoinといった複数の暗号資産に対応。支払いが完了するとAnthropicのAPIと互換性を持つAPIキーが発行され、環境変数の設定手順とともに案内される。つまり、Claude Codeなどのクライアントをそのまま使いながら、トラフィックはPoison Claudeのサーバーへと向かう。
調査の過程で、設定ミスにより認証なしでアクセス可能なAPIルートが公開状態になっているのをOktaが発見。そこには総ユーザー数881、アクティブユーザー872という数字が記録されていた。
Cloudflareへの報告を受け、メインドメインにはフィッシング警告が表示されるようになったが、別ドメイン(claudeopus[.]shop)については記事公開時点で対応が取られていなかった。
Ecomagent:Googleの無料クレジットを悪用
もう一つのサービス「Ecomagent」は、市場価格を下回るサブスクリプションで無制限トークンを提供すると謳う。ClaudeモデルやOpenAI系モデルを含む複数へのアクセスを広告に掲げているが、こちらも元記事に記載されている具体的なモデル名・バージョン表記については原文を直接参照されたい。現行のOpenAI製品ラインではCodexとGPTは別系統のプロダクトであり、混在した命名が使われている場合はグレーマーケット側の独自表記である可能性がある。
Oktaが決定的な証拠を見つけたのは、サービス自身のウェブサイトに掲載されていたサンプルAPIレスポンスだ。レスポンスのIDフィールドに「msg_vrtx」というプレフィックスが含まれており、これはGoogle CloudのVertex AIプラットフォーム固有のシグネチャだ。Google CloudはAWSと同様に新規アカウントに対して無料クレジットを提供しており、AI系スタートアップには最大35万ドルのクレジットが付与されるプログラムも存在する。こうした大規模クレジットが不正に活用されていると見られる。
大規模な不正登録:3年間で10万5000件以上
Oktaはグレーマーケットサービスとは別に、あるAI動画サービスの無料トライアルを狙った自動登録フラッドも追跡した。約3年間のログデータに、251の異なるIPアドレスから10万5000件以上のブルートフォース試行が記録されていた。
上位のメールドメインはqq.com(中国最大手のメールサービス)であり、QuickQ VPNなど中国ユーザーに広く使われるVPNサービスからのアクセスが多く確認された。
不正取得したアカウントはサイバー犯罪フォーラムでも取引されており、Telegram上の売り手はAPIキーとログイン情報の両方を販売。ある販売業者は「作成済み」アカウントをTetherで40ドルで提供し、「ハック済みアカウントより停止されにくい」と売り込んでいた。
エンジニアが注意すべき点
グレーマーケットのAI APIサービスには以下のリスクが伴う。
- プロンプトの内容がサービス運営者に丸見えになる(プロキシ構造のため避けられない)
- 依存しているアカウントがAI企業に凍結されると、予告なくサービスが停止する
- コスト削減や匿名性を求めて利用しても、実際のオペレーショナルセキュリティは保証されない
Oktaは企業・個人を問わず、こうした非公式サービスの利用を避けるよう促している。
詳細はDiscounted Claude access bought on the gray market may expose every prompt you sendを参照していただきたい。