8月7日、Maxwell Zeffが「Why Normal People Aren't Using AI Agents」と題した記事を公開した。AIエージェントが技術的に実用段階を迎えているにもかかわらず、一般ユーザーにほとんど普及していない実態とその構造的な原因を掘り下げた内容だ。火付け役となったのは、Webブラウザ「Arc」を生み出したThe Browser CompanyのCEO、Josh Millerによるシンプルな問題提起——「AIエージェントを本当に使っている人が、そもそも誰もいないのではないか」。
「誰もAIエージェントを使っていない」——The Browser Company CEOの問題提起
「AIエージェントを本当に使っている人が誰もいないって、ちょっとおかしくないか」
こんな趣旨のポストがX上で急速に拡散した。投稿者は、Webブラウザ「Arc」を開発したThe Browser CompanyのCEO、Josh Millerだ。同社は2024年、コラボレーションツール大手Atlassianに6億1000万ドルで買収されている。ヨーロッパへの家族旅行中、半ば寝ぼけた状態で書いたという投稿だったが、シリコンバレーを中心に大きな共感を呼んだ。
数字を見れば、その実態は明白だ。OpenAIは先月、CodexとChatGPT Workのエージェント機能の週間アクティブユーザー数が合計約1000万人と発表した。AnthropicのClaude CodeやCoworkも同程度の水準とされる。一方、ChatGPTやGeminiといったチャットボットは月間アクティブユーザーが各10億人前後。なお、前者は週次・後者は月次という測定期間の違いがあり、単純比較には注意が必要だが、それを考慮してもなお、エージェントのユーザー規模がチャットボットに対して桁違いに小さいことは明らかだ。
問題の本質:「AIエージェント」は技術であって、製品ではない
Millerの主張の核心はここにある。
「誰もAIエージェントなんて欲しいと思っていない。なぜなら、AIエージェントというものは存在しないからだ。業界が勝手に作り上げたフレームに過ぎない」
ここで言う「AIエージェント」とは、ユーザーが明示的に操作しなくても、目標を与えるだけで自律的にタスクを計画・実行するAIシステムを指す。ブラウザの自動操作、コード生成・実行、メールの自動返信など、複数ステップにわたるアクションを連続して行える点が従来のチャットボットとの主な違いだ。技術的な洗練度は増しているが、Millerはその「技術」をそのまま製品として売り出そうとすること自体に問題があると指摘する。
彼が提案するのは、ユーザーに「これはAIエージェントだ」と意識させるのではなく、体験として自然に溶け込む製品を作ることだ。
実例として挙げるのが、同社のAI搭載ブラウザ「Dia」の機能「パーソナル朝のブリーフィング」だ。ラップトップを開くと、カレンダーやメールから自動生成されたTo-Doリスト、アート作品などが表示されるホーム画面が現れる。技術的にはAIエージェントが動いているが、ユーザーはそれを知る必要がない。Millerによれば、これがThe Browser Company史上最も人気の高い機能になっている。
業界のグループシンクが普及を妨げている
Millerはこの状況を「業界内のグループシンク(集団思考)」が招いていると見る。Atlassianによる買収交渉の過程で主要なAIラボのリーダーたちと面会した際、こんなことがあったという。
「ほぼすべてのラボが、映画『Her』を引き合いに出してビジョンを語っていた。意見の多様性が明らかに欠けている」
『Her』は2013年にスパイク・ジョーンズ監督が手がけたSF映画で、人間とAIアシスタントが深い関係を築くさまを描いた作品だ。AI産業への影響力は大きく、今日の音声インターフェース開発にも影を落としているとされる。AIエージェントを作っている人たちが、こうしたSF的な世界観に強く縛られている——この指摘は、なぜ現在のエージェント製品が「デモ」の域を出ないのかを説明する一つの答えだ。Webサイトをナビゲートする、コードを書くといった「モデルが最も印象的にできること」を実装するのではなく、ユーザーが実際に何を必要としているかから逆算した設計が欠けている、ということだ。
最近のトレンドと、それでも残る課題
最近のエージェント製品の潮流は、ユーザー自身がプレゼン資料の作成やデータ整理といった作業を自動化するツールを構築できるようにする方向に向かっている。Zeff自身、ChatGPT WorkやClaude Coworkを頻繁に使用しており、以前より実用的になったと評価している。
ただし、自分専用の生産性ツールを作ることに関心を持つ層は限られている。メインストリームへの普及を目指すには、より大きなアイデアが必要だ、とZeffは指摘する。
Millerのメッセージは、OpenAIやAnthropicだけでなく、あらゆるスタートアップの創業者やプロダクトビルダーに向けたものだ。
「AIエージェントというナラティブをそのまま受け入れるのではなく、本当に喜びがあって、使いやすく、役に立つ製品とは何かを問い直してほしい。それがAIエージェントに見えるかどうかなんて、誰も気にしない」
詳細はWhy Normal People Aren't Using AI Agentsを参照していただきたい。