8月6日、pbxscience.comが「Cloudflare Gives AI Agents an Identity and a Wallet of Their Own」と題した記事を公開した。なお、同サイトはCloudflareの一次発表をまとめたものであり、Cloudflare公式ブログの原文はこちらから確認できる。CloudflareがAIエージェント向けにID・決済ウォレットを付与する新システムを発表したことを受け、その内容を以下に紹介する。
AIエージェントが自律的にAPIを呼び出し、サービスの購入まで完結させる——そのためのインフラが、Cloudflareによって整備されつつある。
AIエージェントに「財布」と「身元」を持たせる
Cloudflareは8月4日、AIエージェント向けのID・決済システムとして、Cloudflare Walletsとcloudflare.payの2製品を発表した。
AIエージェントとは、人間に代わってWebサイトの閲覧、API呼び出し、購買といった処理を自律的に実行するソフトウェアのことだ。こうしたエージェントが増えるにつれ、「そのリクエストが信頼できる送信元からのものかどうか」を受信側が判断できないという問題が顕在化してきた。現在のBot検出の仕組みは、主に検索エンジンのクローラーや悪意あるトラフィックをブロックするために設計されており、正当な購買エージェントとスクレイパーを区別することは想定されていない。
Cloudflare CEOのMatthew Princeは、インターネットが人間によるブラウジングからAIエージェント主導のコマースへ移行しつつあると主張している。そのうえで、エージェントの行動をそれを所有する個人・組織に紐付けることで、実際の取引が成立できる程度の説明責任が生まれると述べている。
2層構造のウォレット設計
ウォレットの仕組みは2段構成になっている。
- Account Wallet:人間(または組織)が管理する中央の資金プール。ステーブルコイン(価格変動が少ない暗号資産)の入出金に対応する。
- Virtual Wallet:個々のAIエージェントに割り当てる専用ウォレット。Account Walletから資金を引き出し、APIアクセスやMCPツールの利用料金の支払いに使う。
決済に使われるステーブルコインとしては、USDC(USD Coin)が代表的な候補として挙げられている。x402プロトコルの実装例においてもUSDCが参照されており、EthereumやBaseといったEVM互換チェーン上での動作が想定されている。
Virtual Walletには「使用条件」を設定できる点が実用上の核心だ。設定できる条件は以下の通り。
- 総支払い上限額(スペンディングキャップ)
- 承認済みの支払い先リスト
- 1トランザクションあたりの上限額
エージェントはこの条件の範囲内でしか決済を完了できない。また、異常に速いペースや予想外の支出は、人間によるレビューのためにフラグが立てられる。
IDレイヤー:cloudflare.pay
決済の相手方から見た「誰が送ってきたのか」を明確にするのがcloudflare.payだ。Cloudflareの各アカウントには固有のWebアドレスが割り当てられ、これがエージェントの永続的なIDとして機能する。アカウント保有者は、自分が展開する個々のエージェントにこのIDを継承させることができる。取引時にはhuman-readableなハンドル名(例:acme-corp.cloudflare.payのようなもの)が提示され、受信側は誰が承認したリクエストなのかを確認できる仕組みだ。
ハンドル名の予約は8月4日から受付が開始されている。
技術的な基盤:x402プロトコル
Cloudflare WalletsはHTTPステータスコード402(Payment Required)を流用した決済プロトコル「**x402**」上で動作する。サイトがリクエスト単位でエージェントに課金できる仕組みで、決済はステーブルコインで行われる。
x402はCloudflare独自の仕様ではなく、Coinbaseが主導するオープン標準として策定が進んでいる点が重要だ。GitHubリポジトリ(coinbase/x402)は公開されており、Cloudflare以外のプレイヤーも実装・参加できるエコシステムとして設計されている。今回のCloudflare WalletsはそのエコシステムにおけるCloudflare側の実装という位置づけであり、特定ベンダーへのロックインを前提としない点がエンジニアにとって重要なポイントとなる。
今回の発表は、約1ヶ月前に導入されたMonetization Gateway(販売者側がAIエージェントにアクセス課金できるツール)の続きにあたる。Monetization Gatewayが「売る側」のインフラだとすれば、WalletsとCloudflare.payは「買う側」の対になるインフラとして位置づけられている。
さらにCloudflareは、Visa・Mastercard・American Expressといったカードネットワークとも、エージェントIDの共通規格策定に向けて連携していると明かしている。既存決済ネットワークとの統合が完了したわけではなく、規格レベルでの協調が進んでいる段階である。
今後のスケジュール
ハンドル予約はすでに受付中だ。資金の入出金やVirtual Walletの発行といったコア機能は、今後数ヶ月以内にロールアウト予定とされている。
詳細はCloudflare Gives AI Agents an Identity and a Wallet of Their Ownを参照していただきたい。