8月6日、SiliconAngleが「Google targets AI startup Mechanize's technology and talent in proposed $1.5B deal」と題した記事を公開した。完全買収ではなく、技術ライセンスと人材採用を組み合わせた「買収しない買収」——Googleが今またこの手法でAIコーディング市場の巻き返しを図っている。
「買収しない買収」——Googleの常套手段
Googleが、AIスタートアップMechanize Inc.との間で、約15億ドル規模の非独占的ライセンス契約と人材採用を組み合わせた取引を検討している。Business Insiderが関係者4名の話として最初に報じ、SiliconAngleが詳細を伝えた。
この取引構造は、Googleが以前から繰り返してきたパターンだ。完全買収ではなく、技術ライセンス+人材採用を組み合わせたハイブリッド型にすることで、独占禁止法上の審査を回避できる。
直近の代表例が、コーディング支援ツールWindsurf(旧Codeium)との取引だ。GoogleはWindsurfの主要エンジニアを引き抜き、技術ライセンスも取得。元WindsurfCEOのVarun MohanはGoogleのエージェント型コーディングプラットフォーム「Antigravity」の開発を率いている。2024年にはCharacter Technologies Inc.(Character.AI)との間でも同様の取引を行い、共同創業者のNoam Shazeerを再雇用してモデルの非独占ライセンスを取得している。
コーディングAIで出遅れたGoogleの巻き返し策
Googleがこの取引に動いた直接の理由は、AIコーディング領域での競合他社への遅れだ。AnthropicのClaude CodeとOpenAIのCodexは企業向けに強い採用実績を持っており、Googleのコーディングエージェントは一般的にこれらに劣ると見られている。Mechanizeの技術とモデル評価・開発の専門人材を取り込むことで、この差を縮めるのが狙いとみられる。
Mechanizeは2025年に設立されたばかりのスタートアップで、知識労働全般をAIで自動化することを長期目標に掲げる。現在はシミュレーション仮想環境の構築、評価ベンチマーク、AIエージェントのグレーディングシステム(GBAEval)の開発に注力しており、AIエージェントが様々なビジネスタスクをこなせるかをテスト・訓練するためのインフラを整備している。
GBAEvalは、AIエージェントを実際のビジネス環境に近い条件下で評価するためのベンチマーク群だ。単純なコード補完の精度を測るものではなく、複数ステップにまたがる業務フローをエージェントが自律的にこなせるかを検証する設計になっている。GoogleがMechanizeの技術を取得することで狙うのは、Antigravityプラットフォームにこうした評価・訓練インフラを組み込み、エージェントの実務能力を体系的に底上げすることだと考えられる。
Mechanizeの陣容と評価額
資金調達は今年初め、元GitHub CEOのNat Friedman、Stripe CEOのPatrick Collison、ポッドキャスターのDwarkesh Patelらを投資家として910万ドルを調達。評価額は5億ドルとされる。CEOのTamay Besirogluは、AI研究機関Epoch Artificial Intelligence Inc.の共同創業者でもあり、AIの能力推移や経済的インパクトの定量研究で知られる人物だ。
Mechanizeの射程はコーディングの先
Mechanizeのウェブサイトには「現在の焦点はソフトウェアエンジニアリングだが、長期目標は経済全体における価値ある労働の完全自動化だ」と記されている。Googleがこの取引で得ようとしているのはコーディング性能の改善にとどまらず、汎用的なAIエージェント評価基盤の技術ノウハウである可能性がある。
取引の詳細や最終的な合意の有無は現時点では未確認だ。ただし、この案件は「AIコーディングが最も収益性の高いAI応用領域の一つとなっていること」と「大手テック企業が有力なAI開発人材の確保に多額を投じる意思があること」という、業界の二つの大きな流れを象徴している。
詳細はGoogle targets AI startup Mechanize's technology and talent in proposed $1.5B dealを参照していただきたい。