8月7日、Joseph Coxが「Software Giant SAP Stops Most Travel and Hiring Because of AI's Soaring Cost」と題した記事を公開した。この記事では、SAPがAIコストの急騰を理由に採用・出張を凍結し、AI関連以外の支出を絞り込んでいる実態について詳しく紹介されている。
AIへの投資が、AIコストで圧迫される皮肉
2023年度の売上高が約317億ユーロ、従業員数が10万人超に上る世界最大規模のエンタープライズソフトウェア企業であるSAPが、AIにかかるコストの急騰を理由に、採用および社内出張のほぼ全面的な凍結に踏み切った。404 Mediaが入手した社内メールによると、凍結措置は2025年7月1日付でSAP幹部から全世界の従業員に向けて送付されたものだ(本紹介記事の公開は2026年8月であり、約1年前に発出された措置ということになる)。
Bloombergが2026年7月に最初に報じたものの、404 Mediaが接触した現役SAP社員によると、この禁止措置は現在も継続中だという。社員は「最近の全社ミーティングでも改めて言及された」と語り、さらにSAPが現在、新たに開発したAIツールを全社展開しているとも明かした。「コストがさらに跳ね上がるのは想像に難くない」というのがその社員の見解だ。
メールの中身:AI以外は削る
社内メールには、コスト規律の具体策として以下の2点が明記されていた。
- 採用:「AI関連のコアロール」を除き、新規採用を原則停止
- 出張:社内出張は原則禁止。例外は顧客対応、AI開発プログラム「All in on AI」関連、およびAI研修のデリバリーに限定
メールの文面は「これらの措置はアウトプットを減らすことが目的ではない」と締めくくっており、「最も重要な領域に投資を集中しつつ、節約できる部分では慎重かつ責任ある判断をする」という姿勢を強調している。
表向きは「戦略的な選択」と説明しているが、実態はAIのトークン消費とそれに伴うコストが制御しきれなくなりつつあることへの対処だ。メールには「AIを活用する場面が増えるにつれ、トークン使用量と関連コストが増加している」と率直に記されている。
業界全体で広がるAIコスト問題
SAPの事例は孤立したケースではない。404 Mediaはこれまで、同様の問題に直面する企業を継続的に取材してきた。
- Citi:特定のAIモデルへのアクセスを遮断
- Atlassian:AIツールの無制限利用を廃止し、従業員が使用量を追跡できるダッシュボードを導入
- Adobe:Claude(Anthropicの大規模言語モデル)の無制限アクセス契約を更新せず
- Microsoft:AIの予算上限を設定し、「トークンの最大消費(tokenmaxxing)は最適化の目標ではない」と社内エンジニアに通達。なお「tokenmaxxing」はAIの出力トークン数を意図的に最大化して利用する行為を指す造語で、元記事の文脈では社内スラング的に用いられており、業界標準用語ではない
- Accenture:リークされた音声によると、非技術系社員がPDFのスライド変換など軽微な作業にAIを使い、トークン予算を使い切ってしまう問題が発生
さらに奇妙な対策として、ClaudeやCodexに「穴居人のような話し方」をさせるプロンプト設計を採用する企業も現れた。AIの応答を意図的に短くさせることで、トークン消費を抑えるという手法だ。この手法は元記事内で実際に取材対象の社員が言及したものであり、公式なベストプラクティスではなく現場レベルの苦肉の策として紹介されている。
「AIで生産性向上」の前提が崩れつつある
当初、AIは「コスト削減ツール」として導入が正当化されてきた。しかし実際には、AIの利用拡大が新たなコスト増を生み出し、その穴埋めのために他の予算が削られるという構図が各社で顕在化しつつある。SAPのケースでは、AI投資の財源を確保するために採用と出張という「人への投資」が犠牲になっている。
SAPはコメント要請に対して回答しなかった。
詳細はSoftware Giant SAP Stops Most Travel and Hiring Because of AI's Soaring Costを参照していただきたい。