8月7日、Scientific Americanが「OpenAI's latest math breakthroughs commit research misconduct, experts say」と題した記事を公開した。OpenAIが発表したAIによる数学的成果が、先行研究の適切な引用を欠いているとして複数の専門家から「研究不正(research misconduct)」と明確に批判されており、学術コミュニティで波紋を呼んでいる。
OpenAIが発表した「10の数学的進歩」
OpenAIは先週、開発・テスト中の次世代大規模言語モデル(LLM)が生み出した10件の数学的成果を発表した(※編集部注:元記事ではモデルを「Astra」と呼称しているが、これがOpenAIの公式モデル名か社内コード名かは現時点で確認されていない)。いずれも数学コミュニティが長年取り組んできた未解決問題に関するもので、総コストはわずか2,000ドルだったという。
発表は「AI数学研究の新たな到達点」として広く報じられた。しかしその後、専門家たちが約250ページに及ぶ論文を精査すると、深刻な問題が浮かび上がった。
「先行研究のアイデアが適切に引用されていない」——専門家が指摘
最大の問題となっているのは、10件中でも特に注目を集めた2件の成果が、既存の数学論文のアイデアを適切な引用なしに取り込んでいるという点だ。複数の専門家がこれを「研究不正」と明確に述べており、元記事もその主張を軸に構成されている。
OpenAIの当初のプレスリリースには「Astraが取り組んだ問題は、少なくとも10年間、主要な結果において進展が見られなかった未解決問題だ」と記されていた。しかし専門家の指摘を受け、OpenAIはその後この表現を修正している。
高次元の球詰め込み問題
1件目は、1,000次元以上の数学的空間における球の最密充填問題に関するものだ。OpenAIの論文はその詰め込み密度の上限推定を改善したとしているが、証明の核心となる数学的議論は、数学者Steven Millerと共同研究者が2016年に発表した論文に初めて登場したものだという。
Millerは「他の先人たちの研究を意図的に踏みにじっている。完全に組織的なものだと思われ、研究不正を示している」と述べ、OpenAIが自身の研究を事実上無断で活用したと主張している。
群論の未解決問題(ソフィシティ問題)
2件目は**群論(group theory)**における長年の未解決問題だ。「ソフィシティ(soficity)」とは、ある群がより単純な群によって忠実に近似できる性質を指す概念で、すべての群がこの性質を持つかどうかが数学者の間で長年議論されてきた。OpenAIの論文はこの性質を持たない群の存在を示したとしている。
ケンブリッジ大学の数学者Francesco Fournier-Facioはこの成果に当初衝撃を受けたが、精査すると話は変わった。AIが用いた数学的な核心ステップは、ドレスデン工科大学の数学者Andreas Thomが2016年と2019年に発表した2本の論文のアイデアを組み合わせたものだった。ThomはMathOverflow.comに投稿した分析でこの結果を「独創的であり、同時に基本的だ」と評している。
Fournier-Facioはこう語る。「OpenAIの数学者たちは適切に帰属を記そうと努力した。しかし、できる限り印象的に聞こえることを求め、100%の正確さにはこだわらないPRの巨大機械が存在している」。
LLMの強みは「知的跳躍」ではなく「パズル組み立ての忍耐力」
今回の騒動が浮き彫りにしているのは、AIが数学において発揮している能力の本質だ。Fournier-Facioらが指摘するように、AIが行っていることは既存の文献からアイデアを組み合わせて新しい定理を構築することであり、人間には到底まねできない量の先行研究を処理できる「超人的な忍耐力」が強みだ。深遠な知的跳躍ではない。
これは今回に限った話ではなく、最近のAI数学ブレークスルーでも同様のパターンが指摘されている。AIが膨大な先行研究を高速に参照・統合できる点は強みである一方、その過程で引用の透明性が損なわれるリスクが構造的に生じうることを、今回の事例は示している。
OpenAIの対応と研究倫理の問題
OpenAIはScientific Americanの取材に対し、「これらの結果の正確性について責任を負い、人間の数学者に一般的に期待される基準と同じ基準を満たしている。今週中に標準的な学術慣行に沿って小規模な修正を行う予定だ」と述べた。
しかしFournier-Facioはより根本的な問題を指摘する。「OpenAIは今や高度な研究に完全に参加している。ならば、我々と同じ学術基準を課されるべきだ」。
数学者の間ではAI利用を規制する宣言への署名活動も起きており、AIが学術的規範への敬意なしに数学研究に参入し続けることへの不満が高まっている。
詳細はOpenAI's latest math breakthroughs commit research misconduct, experts sayを参照していただきたい。