8月7日、CNBCが「AMD buys chip startup that hardwires AI models into its silicon」と題した記事を公開した。AMDがAIモデルをシリコンに直接組み込む推論専用チップを開発するスタートアップ・Taalasの買収に合意したことについて詳しく紹介されている。
AIチップを「汎用」から「専用」へ——Taalas買収の核心
AMDは木曜日、トロント拠点のスタートアップTaalasの買収に合意したと発表した。Taalasは2023年創業で、これまでに2億1900万ドルのベンチャー資金を調達している。買収金額は非公開だ。
Taalasのアプローチは、一般的なGPUとは根本的に異なる。GPUは汎用設計であり、さまざまなAIモデルを実行できる柔軟性を持つ。一方、Taalasのアクセラレータは特定のAIモデル専用にハードウェアを設計(ハードワイヤード)する。
ここで言う「ハードワイヤード」とは、AIモデルの演算グラフや重みをソフトウェアで実行するのではなく、チップの回路構造そのものとして固定することを指す。汎用GPUが「どんなプログラムも動かせる汎用プロセッサ」であるのに対し、ハードワイヤードチップは「特定の計算しかできないが、その計算に限れば極めて高速・低消費電力」という設計哲学だ。FPGAやASICに近い発想と言える。
柔軟性を捨てる代わりに、特定モデルの推論を従来のGPUより数千倍高速に処理できると同社は主張する。コストも低く抑えられるという。
現行チップはMetaのLlama 3.1の小規模モデルに対応しており、製造プロセスは旧世代のTSMCプロセスを採用している。注目すべきはチップ上に高速SRAM(Static Random Access Memory)を搭載している点だ。SRAMはDRAMと比べてアクセス速度が大幅に速く、レイテンシが極めて低い。推論処理においてメモリ帯域幅がボトルネックになりやすいことを踏まえると、SRAMをオンチップに搭載することで「モデルの重みをチップ内で完結させ、外部メモリへのアクセス待ちを最小化する」という設計上の優位性がある。より大規模・高度なモデル向けのチップも開発中とされる。
TaalasのCEO、Ljubisa Bajic氏は自社サイトでこう述べている。
「私たちは、あらゆるAIモデルをカスタムシリコンに変換するプラットフォームを開発した。未知のモデルを受け取った瞬間から、わずか2ヶ月でハードウェアとして実現できる。」
この「2ヶ月でシリコン化」というターンアラウンドの速さが、専用チップビジネスの実用性を担保する鍵になる。従来のASIC開発では設計から製造まで1〜2年を要することも珍しくなく、モデルの進化サイクルに追いつけないことが専用チップの弱点とされてきた。Taalasはそこを短縮することで差別化を図っている。
「低レイテンシ」推論市場の争奪戦
Taalasのような専用推論チップが注目される理由は、低レイテンシ(応答の速さ)へのニーズにある。チャットボットや音声AIのように「最初のトークンが出るまでの時間(TTFT: Time to First Token)」がユーザー体験を左右するアプリケーションでは、汎用GPUより専用チップが有利になる場面がある。
この市場では競合各社も動いている。元記事によれば、推論チップ専業のGroq(NvidiaとGroqは別会社であり、両社に資本関係はない)が低レイテンシ推論の代表的プレイヤーとして知られており、AMDの今回のTaalas買収はこうした専用推論チップ勢力への対抗という文脈で位置づけられる。
AMD CEOのLisa Su氏は7月のプロダクトローンチでこう語っている。
「チップに万能解はないと私は強く信じている。ただし、新しく開発されるAIモデルに対応できる柔軟性があることから、AIチップ市場の大半は引き続きGPUが占めると予想している。」
HeliosラックとTaalas——AMDの統合戦略
今回の買収は単独のチップ強化策ではなく、AMDが進めるラックスケールシステム「Helios」の完成度を高めるための一手でもある。HeliosはNvidiaの統合サーバーラックに対抗する製品で、MetaやMicrosoftへの出荷がすでに始まっている。
AMDはTaalasのチップと技術を、自社のCPUおよびInstinct GPUを含むシステムに統合する方針だ。さらに7月には、AIチップメーカー**Cerebras**との提携も発表しており、今年後半にCerebrasのチップをシステムに組み込む計画を進めている。
AMDの近年のM&Aを並べると、Heliosを軸にした体系的な補強が見えてくる。
- 2024年: Silo AI(AIモデル開発)を6億6500万ドルで買収
- 2024年: ZT Systems(ラックスケール製品の技術基盤)を49億ドルで買収
- 2025年: MK1(推論向けソフトウェア)など複数のAI企業を買収
- 2026年: Taalas(推論専用ハードウェア)買収に合意
ソフトウェアからラック設計、汎用GPU、そして今回の専用推論チップまで、垂直統合を一歩ずつ埋めている構図だ。
詳細はAMD buys chip startup that hardwires AI models into its siliconを参照していただきたい。