8月4日、Latent Spaceが「[AINews] Qwen 3.8 Max(2.4T) and 27B, new open weights models for Coding and Cowork」と題した記事を公開した。この記事では、Alibabaのオープンウェイトモデル「Qwen 3.8 Max」(2.4Tパラメータ)と「Qwen 3.8 27B」の発表内容と、第三者ベンチマークでの評価結果について詳しく紹介されている。
フロンティアを揺さぶる評価結果
Qwen 3.8 Maxが注目を集める最大の理由は、コスト効率でClaudeファミリーに並びながら、SWE-benchではGPT-5.5を超えたという第三者ベンチマークの結果にある。
個別ベンチマークでは以下の数値が報告されている:
- **SWE-bench(ソフトウェアエンジニアリングタスクの実世界的評価指標): 87.3%**(GPT-5.5の82.6%、GLM-5.2の83.3%を上回る。ただしClaude Opus 4.8の89.2%には届かず)
- Terminal-Bench 2.1(ターミナル操作・CLIエージェント能力の評価指標): 67.4(Qwen 3.7 Maxの61.0から改善)
- Vision Arena: 1,305点で2位(1位のClaude Fable 5 [High]と13点差)
※「GPT-5.5」はOpenAIの内部・外部リリース状況により呼称が変わる可能性があるため、元記事に記載のモデル名をそのまま使用している。読者は元記事の時点での呼称として参照されたい。
Vals Index(コーディング・エージェント能力を総合的にスコアリングする第三者評価)では66.1点で全43モデル中10位、オープンウェイトモデル中2位。Claude Opus 4.7と同スコア(66.1)でありながら、テストあたりのコストが約2.3倍低い($2.68対$6.17)点が特筆される。
Vals AIが示した世代間の進歩も目を引く:Qwen 3.7 Max(57.5)→ Qwen 3.8 Max(66.1)で約2.5ヶ月で8.6点の向上、かつ価格はインプット$2.50→$2.00、アウトプット$7.50→$6.00へと引き下げられた。
Qwen 3.8 Maxとは何か
2.4TパラメータのMoE(Mixture of Experts:巨大なモデル全体を常時動かすのではなく、入力ごとに一部の「専門家」ネットワークだけを活性化することで計算効率を高めるアーキテクチャ)モデルで、トークンあたりの活性パラメータは約95B。コーディング・長期エージェント作業・マルチモーダル推論に特化した設計とされる。1Mトークンのコンテキストウィンドウと128kトークンの最大出力を持ち、OpenAIおよびAnthropicプロトコルとの互換性も謳っている。
現時点ではAPIで利用可能で、価格はインプット$2.00/Mトークン、アウトプット$6.00/Mトークン、キャッシュ$0.25/Mトークン。オープンウェイトは「来週リリース予定」とAlibabaがアナウンスしており、小型版のQwen 3.8 27Bも同様にオープンウェイト公開予定だ。
Frontend Code ArenaではEloスコア1,668で4位。上位はClaude Opus 5 [Max](1,705)、Kimi K3 [Max](1,676)、Claude Opus 5 [High](1,669)で、Claudeファミリーにほぼ並ぶ水準だ。なお、Kimi K3はMoonShot AIが同時期にリリースしたオープンウェイトのMoEモデルで、Frontend Code ArenaではQwen 3.8 Maxをわずかに上回る。両者はコーディング能力・コスト効率の面で直接競合する位置づけにある。
実際に動かせるのか:ハードウェアの現実
「オープンウェイト」という言葉に対し、エンジニアからは現実的な懸念が上がっている。
VC・アナリストのJamin Ballは以下のように指摘した:
Qwen 3.8 Maxは2T超のパラメータ。重みをロードするだけで1TB超のメモリが必要で、最低でもH100/B200を8枚は必要。Kimi K3はMoonShotが64枚以上の構成を推奨している。トークン単価だけで比較するのは誤解を招く。
別のユーザーも「長いプロンプトや重いツール呼び出しはコンシューマーハードウェアでは現実的でない。API経由が素直」と述べており、2.4T規模のMoEモデルがローカル推論の対象になるのはまだ先だ。
むしろコミュニティの期待が集まっているのはQwen 3.8 27Bの方で、フラッグシップのポストトレーニング技術や蒸留の恩恵を受ける可能性がある小型版として、実際の採用拡大はこちらが担うとみる声が多い。
※編集部の考察:Alibabaが2.4Tという巨大モデルをオープンウェイトで公開する背景には、フロンティア水準のモデルを「使える状態」で外部に開放することで研究者・開発者コミュニティの支持を獲得し、エコシステムの主導権を握る狙いがあるとみられる。クローズドAPIだけでなく重みを公開することで、ファインチューニングや独自デプロイを可能にし、採用障壁を下げる戦略だ。
ライセンス問題:「オープン」の定義が問われている
技術的な評価とは別に、ライセンス面での懸念も浮上した。
OstrisAIは、Qwen 3.8 Maxのライセンス条項に米国・EU・英国・韓国でのダウンロード・使用を禁ずるとも読める記述が含まれると指摘した。Alibaba側からの明確な反論はこの記事の時点では確認されていない。
「オープンウェイト」は必ずしも以下を意味しない:
- OSI準拠のオープンソースライセンス
- 商用利用の許可
- 主要地域での法的な利用権
この点は、同時期に話題になった別のオープンウェイトリリース「MiniMax H3」でも同様の議論が起きており、中国発モデルに共通する構造的な問題として認識されつつある。
全体的な評価
フロンティア水準のオープンウェイトモデルを中国勢が継続的にリリースしていることは、業界全体での「オープンモデルの競争力」の議論を変えつつある。ベンチマーク上の事実として、コスト効率ではClaudeファミリーに対して優位な部分が出てきている。
ただし、ライセンス条項に不明確な点が残る以上、商用利用に踏み込みにくいエンジニアも多いだろう。Qwen 3.8 27Bのオープンウェイト公開後にコミュニティがどう評価するかが、今後の焦点となる。
詳細は[AINews] Qwen 3.8 Max(2.4T) and 27B, new open weights models for Coding and Coworkを参照していただきたい。