8月5日、RuntimeWireが「Black Forest Labs opens FLUX 3 Video API with native audio and draft rendering」と題した記事を公開した。注目すべきは単なる動画生成APIの追加ではなく、複数言語でのリップシンク対応と、反復コストを抑えるDraftモードのコスト構造という2点だ。いずれも広告制作・コンテンツ制作の現場パイプラインを意識した設計であり、RunwayやLumaとの正面対決を鮮明にしている。
FLUX 3 Video、一般公開へ
Black Forest Labsの共同創業者兼CEOであるRobin Rombachは、8月4日にFLUX 3 VideoをAPI経由で一般公開した。テキスト・画像・キーフレーム・既存動画クリップからビデオと音声を同時生成できる。
Black Forest Labsは、潜在拡散モデル(Latent Diffusion)の研究をStability AIと共同で進めたAndreas BlattmannやPatrick Esserらが創業した企業だ。Stable Diffusion自体はCompVis(ミュンヘン大学)とStability AIが中心となって開発したプロジェクトであり、Black Forest Labsの創業メンバーはその「共同研究者」として参加した立場にある。Andreessen Horowitz(a16z)は2024年の出資時に、彼らをStable Diffusionシリーズの「オリジナル共同開発者」と位置付けた。拠点はドイツ・フライブルクとサンフランシスコ。
FLUX 3 Videoは、同社がこれまで手がけてきた画像生成市場から踏み出す初めての動画生成プロダクトだ。
3つの生成モード
公開ドキュメントによれば、FLUX 3 Videoは以下3つのモードをサポートする:
- テキスト→動画(Text-to-Video)
- 画像→動画(Image-to-Video):複数画像をフレームとして固定できる
- 動画の続き生成(Video Continuation):最大4秒の既存動画・音声を入力として受け取り、その続きを生成する
生成クリップの長さは最大20秒で、HD出力に対応。フルHD(1920×1088、16:9)はアップスケーリングで提供される。フレームレートは24fps。
これら3モードが揃うことで、静止素材しか持たないチームでも「画像→動画」で始め、続きシーンを「Video Continuation」で延伸する、といった段階的な制作フローを一つのAPIで完結させられる。テキストのみでプロトタイプを立ち上げ、素材が揃ったら入力を差し替えるといったパイプライン設計も現実的になる。
音声・リップシンク対応が差別化ポイント
特筆すべきは音声まわりの機能だ。FLUX 3 Videoは環境音・効果音の生成に加え、複数言語でのセリフとリップシンクに対応している。対応言語は英語・中国語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・日本語・ポルトガル語・ロシア語・イタリア語・インドネシア語・トルコ語・ヒンディー語・パンジャブ語。
また、一回の生成で複数のショットとカメラアングルを作成でき、シーン内のテキスト描画にも対応しているとされる。
最も実用的な機能:Draftモード
エンジニアや制作現場にとって刺さりそうな機能がDraft(ドラフト)モードだ。
動画生成の現場では、満足のいく出力を得るまでに複数回の完全レンダリングを繰り返すコストが課題になっていた。Draftモードは低品質の高速プレビューを先に生成し、気に入った構図・被写体・動きがあれば、そのまま最終品質のレンダリングへ投げ込む仕組みだ。構図や動きがドラフトから最終レンダリングへ引き継がれる点がポイントとなる。
価格は以下の通り:
- Draftモード:$0.06/秒(20秒のプレビュー = $1.20)
- 通常レンダリング(HD構成):$0.17/秒(5秒 = $0.85)
このドラフト→本番レンダリングのワークフローは、広告制作やストーリーボード作成など、再現性を重視するパイプラインへの組み込みを想定している。
内部ベンチマークの主張
Black Forest Labsは、社内の人間評価でFLUX 3 Videoが競合モデルを上回ったと主張している。ただし、評価の時点が2段階に分かれている点には注意が必要だ。
まず、7月23日の早期アクセス段階において、Runway Gen-4.5に対して77%、Luma Ray 3.2に対して93%の選好率を報告している。次に、8月4日の正式公開時には「ByteDanceのSeedance 2.0と同等、その他テスト対象のモデルを上回った」と述べた。前者は早期アクセス中のモデルによる評価、後者は公開版モデルによる評価であり、比較対象・評価条件が異なる可能性がある。
いずれにせよ、これらは独立した第三者機関によるベンチマークではなく、同社自身が実施した評価だ。評価ハーネスとモデル自体がまだ開発中だったとも認めており、価格・生成速度・実運用負荷を含めた横断的な比較には慎重さが必要だ。
より大きな構想:マルチモーダル基盤モデル
FLUX 3 Videoは、画像・動画・音声を単一のマルチモーダル基盤モデルで統合的に学習したアーキテクチャの最初の商用リリースだ。この「単一バックボーンでモダリティを横断する」設計思想があるからこそ、同じモデル基盤を別ドメインへ転用する展開も可能になっている。その一例がFLUX-mimicだ。ロボティクス分野への応用として、自動車メーカー・アウディの製造タスクでmimic roboticsと共同テストが進められている。
今後のロードマップには、FLUX 3の画像生成・編集機能のリリースと、オープンウェイト版「FLUX 3 Dev」が含まれる。
資金面では2025年12月に3億ドルのシリーズBを実施。Salesforce VenturesとAMPが共同リードし、評価額は32.5億ドル(ポストマネー)。TemasekやBain Capital Ventures、Canva、Figma Venturesなどが参加している。
競合となるのはRunway、Luma、Kling、Seedance、GoogleのVideoモデル群だ。
詳細はBlack Forest Labs opens FLUX 3 Video API with native audio and draft renderingを参照していただきたい。