8月3日、Digit.inが「Google reportedly had its own ChatGPT before OpenAI, but never released it: Former employee reveals why」と題した記事を公開した。GoogleがChatGPT登場の約1年前に同等の会話型AIを社内開発していたにもかかわらず、検索事業への影響を懸念してリリースしなかった——そう主張するのは、当時のプロジェクトに直接携わっていたという元Google社員だ。技術的な先行者でありながら「守りの判断」でリリースを見送ったとされるこの経緯は、AI業界史における重要な分岐点として注目を集めている。
「LMChat」——ChatGPTより先に存在していたとされるGoogleのチャットボット
この発言を行ったのは、現在OpenAIに在籍する元Google AIリサーチャーのThibault "Tibo" Sottiaux氏だ。同氏はX(旧Twitter)上での議論に参加する形で証言を行った。なお、この発言はGoogleによって公式に確認されたものではなく、あくまでSottiaux氏個人のX投稿に基づく主張である点には留意が必要だ。
きっかけはAIエンジニアのCheng Lou氏が投稿した、GoogleチーフサイエンティストのJeff Dean氏の古いインタビューへの言及だった。そのインタビューでDean氏は、Googleが社内チャットボットを持ちながらも「従来のGoogle検索より有用ではない」と判断していたと語っていた。
これに対しSottiaux氏は、自身がそのプロジェクトに携わっていたと明かした。そのチャットボットは社内で「LMChat」というコードネームで呼ばれており(後に別のコードネームに変更)、OpenAIがChatGPTを公開するよりもかなり前の段階で、機能的にはChatGPTと同等だったという。
Sottiaux氏はもともとGoogleのAI部門でリサーチャーとして勤務しており、LMChatプロジェクトへの関与を通じて大規模言語モデルの実用化研究に携わっていた。その後OpenAIに移籍した経緯の詳細は明らかになっていないが、同氏の転職自体がGoogleの内部方針に対する一種の意思表示と受け取る向きもある。もっとも、この点はあくまで外部からの推測に過ぎない。
なぜGoogleはリリースしなかったのか
Sottiaux氏の主張によれば、Googleがリリースを見送った理由は技術的な問題ではなく、コアビジネスである検索事業への影響だった。会話型AIが普及すれば、ユーザーがGoogle検索を使わなくなるリスクがある——その懸念がプロダクトローンチの障壁になったとされる。
さらに同氏は、DeepMind(Google傘下のAI研究機関)もGoogleの既存サービスと競合しうる製品のリリースに制限を受けていたと述べている。ただしこの点についても、Sottiaux氏個人の見解・観測に基づく主張であり、Googleが組織的な方針としてそのような制限を課していたことを示す公式の証拠は現時点では確認されていない。
皮肉な構図——Transformerを生んだのはGoogle自身だった
この話に深みを加えるのが、生成AIブームの技術的な起点だ。2017年にGoogleの研究者たちが発表した論文「Attention Is All You Need」が、現代の大規模言語モデル(LLM)を支えるTransformerアーキテクチャを世に送り出した。「ChatGPT」の「T」がTransformerの頭文字であることは、その影響の大きさを象徴している。
ChatGPT登場以前にも、GoogleはすでにMeena、LaMDA、PaLMといった高度なAIモデルを開発済みだった。しかしこれらのほとんどは、プライバシー・誤情報・安全性への懸念から、社内に留まるか限定的な公開にとどまっていた。アーキテクチャの発明者でありながら、コンシューマー向けプロダクトの投入では後手に回るという構図は、当時のAI競争において際立ったねじれだった。
2022年前後、OpenAIはGPT-3をベースにしたサービス展開を着々と進め、Microsoftとの提携を深めながら企業・開発者向けのAPIビジネスを拡大しつつあった。Googleがその動きを静観していた背景に、Sottiaux氏が指摘するような「検索防衛」の論理があったとすれば、業界の勢力図が大きく変わったあの時期の意思決定として改めて問い直す価値がある。
ChatGPT登場後のGoogleの動き
2022年末のChatGPT公開が業界に与えた衝撃は大きく、Googleも対応を迫られた。同社は急ピッチでBardを投入し、その後Geminiに改称。現在はChatGPT、Gemini、AnthropicのClaudeが世界で最も広く使われるAIアシスタントとして並立している。
技術的な先行者であり、アーキテクチャの発明者でもあったGoogleが、「検索を守る」という判断によってコンシューマー向けAIの主導権をOpenAIに譲ったという構図は——少なくともSottiaux氏の主張が正確であれば——AI業界史上の重要な分岐点として記憶されることになるだろう。
詳細はGoogle reportedly had its own ChatGPT before OpenAI, but never released it: Former employee reveals whyを参照していただきたい。