8月3日、Crunchbase Newsが「'A Rare Land-Grab Moment': Menlo Ventures' Matt Murphy On The Next Wave of AI And Putting $3B In New Capital To Work」と題した記事を公開した。Anthropicへの早期投資で大きなリターンを得たVCが、今まさに「稀なland-grab(陣地取り)の瞬間」と表現するAI市場の次の波に向け、50年の社史で最大となる30億ドルのファンドを組成した——Menlo VenturesのパートナーMatt Murphyがその投資論を語るインタビューだ。
Menlo Venturesとは
Menlo Venturesは1976年創業、シリコンバレーに拠点を置く老舗VCだ。累計運用資産は数十億ドル規模に上り、Uber、Siri(Apple買収前)、Roku、Chimeといった企業を代表的なポートフォリオに持つ。長年にわたってエンタープライズSaaSやコンシューマー向けテクノロジーに強みを持ってきたが、近年はAI関連投資を急拡大させている。パートナーのMatt Murphyはそのアクティブな推進役として知られる。
50年の歴史で最大の調達、その背景
Menlo Venturesは2025年6月、総額30億ドルの新ファンドを2本立てで発表した。これは同社50年の歴史で最大の調達規模だ。
- Menlo Ventures XVII:シードおよびシリーズAを対象
- Menlo Inflection IV:シリーズB以降の成長資本を対象
従来のVCがシード〜シリーズAに集中するのとは異なり、今回の構成は「会社設立から急成長期まで一貫して伴走できる体制」を整えることを狙ったものだ。背景にあるのは、AI企業が従来のソフトウェア企業より多額の資金を必要とし、かつ非公開のまま長期間成長するという構造変化である。
Anthropicから学んだ「バーベル戦略」
MenloのAIポートフォリオで最も存在感が大きいのがAnthropicだ。Anthropicは2021年創業のAI安全研究企業で、大規模言語モデル「Claude」シリーズを開発・提供している。GoogleやAmazonからの大型出資を受け、2024年時点で評価額は600億ドルを超えるとされる。
MurphyはAnthropicの2023年のシリーズCで初めて投資し、その後のラウンドでも追加投資を行った。Anthropicはシリーズごとに数十億ドル規模の資金を調達しており、シリーズCはGoogleが主導した約4.5億ドルのラウンドとして知られる。Menloはその段階で比較的小さなポジションを取り、確信を深めたシリーズDで大きくリードする判断をした。これが現在のAnthropicの高評価を踏まえると、同ファンドにとって大きなリターン源となっているとみられる。Murphyはこの経緯を次のように振り返る。
シリーズCで最初に投資したことで、チームに近づき、実行力を見極め、方向性を理解する機会を得た。シリーズDをリードしたとき、それは当時の同社史上最大の投資だった。その経験と成果から学び、今ではそれが標準的なアプローチになっている。
この「最初は小さく入り、確信が持てたら大きく追加する」手法を、Murphyはバーベル戦略と表現する。後期ステージでは従来より積極的にチェックを書く一方、初期ステージへの投資も継続する。LovableやSunoへの1億ドル規模の投資もこの延長線上にある。
ただし、選別基準は厳しい。「多くのAIカテゴリは過剰に資金が集まっており、投機も多い」とMurphyは明言する。
Phase 1からPhase 2へ:何が変わるのか
Murphyが強調するのは、AI市場が「フェーズ1」から「フェーズ2」に移行しつつあるという見立てだ。
- Phase 1:開発者がとりあえずモデルを選んでAIを使い始める段階。APIにアクセスし、プロトタイプを動かすことが主眼で、コストやスケールはまだ二次的な問題だった
- Phase 2:企業がAIを本番環境でスケールさせ、インフラコストの最適化・モデルの使い分け・セキュリティ要件への対応が不可欠になる段階。単一のモデルに全依存する構成では立ち行かなくなり、ワークロードごとにモデルを切り替える「マルチモデル運用」が標準になる
この移行は、「何かAIを試してみる」フェーズから「AIをビジネスの中核として継続的に運用する」フェーズへの転換を意味する。コスト・レイテンシ・コンプライアンス・モデル品質のトレードオフを企業が自ら管理しなければならなくなり、それを支えるインフラ層の需要が急拡大している。
この流れを受けてOpenRouter(複数のAIモデルを一元的に切り替えられるマーケットプレイス)、Fireworks AI(高速・低コストな推論インフラ)、Modal(クラウドベースのMLインフラ)といった企業が追い風を受けているとMurphyは見る。「マルチモデルの世界になる。一つのモデルがすべてのニーズを満たすことはない」というのが彼の基本認識だ。
ライフサイエンス向けのChai Discoveryやロボティクス向けのSkild AIなど、垂直特化型モデルへの投資もこの認識に基づいている。
最大のボトルネック:コードを本番環境に届けるまで
AI活用が広がる中でMurphyが挙げる最大のボトルネックは、「大量に生成されたコードをいかに速く、安全に本番環境へ届けるか」だ。
これがソフトウェアデリバリー領域への投資の根拠になっている。具体的には:
オープンソースの重みモデルを使ったカスタムモデルの台頭も、新たなインフラ需要を生んでいる。compute、トレーニング、サンドボックス環境の整備が急務となっており、ModalやFireworksがNebius・CoreWeaveといったcompute providerと連携して対応している。
「60社のモデル企業のうち、5社以上には投資している」
まだプロダクトを持たない段階のAI研究ラボへの投資についても言及している。その一例として挙げられたFlapping Airplanesは、元DeepMindの研究者らが立ち上げた基盤モデル開発ラボで、プロダクトよりも基礎研究・モデル開発を主軸に置く、いわゆる「ラボ型スタートアップ」だ。日本ではまだ知名度は低いが、米VCの間では次世代モデルの担い手として注目を集めている。
Murphyによれば、この領域では最初は小さなチェックを書いて広く露出を確保し、頭角を現してきた1〜2社に集中投下する方針を採る。現在約60社のモデル企業が存在するが、「差別化された技術やチームを主張する企業が多すぎる」とも率直に認める。その中で、Menloは「最良の5社以上」に投資済みとしており、今後1〜2社に絞り込んでいく考えだ。
現時点では多くのAI企業がグロスマージンよりも市場シェアを優先しており、収益性の観点では課題が残る。それでもMurphyは「これは稀なland-grab(陣地取り)の瞬間だ」と述べており、この局面での積極的な投資姿勢を崩していない。
詳細は'A Rare Land-Grab Moment': Menlo Ventures' Matt Murphy On The Next Wave of AI And Putting $3B In New Capital To Workを参照していただきたい。