8月1日、Jitbitが「Cancelling Cursor」と題した記事を公開した。長年の有料Cursorユーザーが解約を決断するに至った具体的な理由を詳細に書き綴った記事で、VSCodeのバージョン遅延、バグ放置、コミュニティ投稿の削除など、複数の問題点が挙げられている。
AIコーディングツール「Cursor」は、VSCode上で動作するAI補完・チャット統合IDEとして急成長した製品だ。記事の著者は2年前に初めてCursorのタブ補完を試して「今すぐ金を払う」と感じたほどのファンだったが、今回サブスクリプションをキャンセルした。その理由を詳細に書き綴っている。
最大の不満:VSCodeが常に古い
最も実害が大きい問題として挙げられているのが、CursorのベースとなるVSCodeのバージョンが常に数ヶ月から10ヶ月単位で遅れている点だ。
具体的には、CursorはVSCodeリリース1.105.0を10ヶ月間使い続けた。その前も9ヶ月サイクルで同様の遅延があった。2週間前にようやく1.125.0へ更新されたが、それでもすでに7リリース分遅れている状態だ。
この遅延が何を引き起こすかというと、拡張機能のアップデートがインストールを拒否するという問題だ。VSCode本体のバージョンと拡張機能の要求するバージョンが合わず、最新の拡張機能が使えなくなる。AIコーディング空間が数ヶ月単位で激変している現状において、10ヶ月の遅延は致命的だと著者は指摘する。
なお、CursorはVSCodeのフォークとして構築されており、MicrosoftのVisual Studio Marketplaceの利用規約によりCursor独自のマーケットプレイス(Open VSX等を含む仕組み)を用いている。このライセンス上の制約が、バージョン追従を複雑にしている構造的な背景として一般に知られている。単純に「開発が遅い」だけでは片付けられない問題ではあるが、著者はそれを踏まえてもなお遅延の度合いが受け入れがたいと述べている。(※上記ライセンス構造に関する補足は編集部が加筆したものであり、元記事には記載がない)
Agentモードの強制とユーザー体験の問題
次に挙げられているのが、アップデートのたびにCursorがAgentビューをデフォルト起動に戻すという問題だ。ユーザーがIDEモードに切り替えてアプリを再起動しても、またAgentビューに戻されてしまう。そしてこの挙動を制御する設定項目は、アップデートのたびに場所と名称が変わる。
この問題は現在、Cursor公式フォーラムで最も議論されているトピックになっている。著者は「善意のバグなのか、意図的な設計なのか判断できない。どちらにせよ良い話ではない」と述べており、断定はしていないものの、ユーザーの意図に反して設定がリセットされ続けるという体験そのものへの不満を表明している。

著者が特に強調するのは方向性の問題だ。Cursorが本来強みを持っていた「段階的な差分の承認・取り消し」「コードベース全体を把握したチャット」「次の編集箇所に飛ぶタブ補完」——こういったIDE機能を磨く代わりに、エージェント機能の追求に舵を切り続けている。
「本当にエージェント的なワークフローが必要なとき、私はCodexやClaude Codeを使う。皮肉なことに、それはCursorの中からでもできる。CursorがAIモデルを再販してマージンを稼ぐより、ClaudeやCodexの"Max"プランを直接契約する方が合理的だ」
バグ報告が1年間放置される
著者は過去1年間で7件のバグを報告したが、すべて未修正かつ未回答のままだという。
一例として挙げられているのが、設定ウィンドウのレイアウト崩れだ。ワイドモニターで使うと、ラベルが左端に、対応するチェックボックスが右端に表示され、その間に広大な空白が生まれる。
著者は「これは5秒で直せるCSSの修正だ。4ヶ月前に報告した」と述べている。問題はバグの存在ではなく、QAが機能しているのか、自社製品を実際に使っているのかという疑問だと指摘する。
177upvoteのReddit投稿が削除された
フィードバックフォーラムへの投稿が無視され続けた著者は、同じ内容をCursorのサブレディットに投稿した。その結果、177のupvoteを獲得した。
「177upvoteは、設定が特殊な一人の不満ユーザーではない。数百人の開発者が『そう、これ、同じ問題が起きている』と同意したということだ。大半の企業が代理店に金を払って集めるような製品リサーチが、無料で手に入っていた」
しかしその投稿はモデレーターによって削除された。

著者はこのサポート体制を「AIが生成した的外れな返答を返すサポートメールボックス、誰も答えないフォーラムスレッド、削除されるコミュニティ投稿——これは夜間に疲れ果てた一人の開発者が趣味で保守しているOSSプロジェクトに期待するレベルだ。多額の買収交渉が噂されている企業のものではない」と述べている。
SpaceXへの売却交渉と方向転換
Cursorの開発元であるAnysphereはSpaceXへの売却交渉が報じられている(著者はこの文脈でサポート水準への疑問を述べているが、交渉の詳細や条件については元記事内で言及されていない)。著者は当初「これでトークンの再販ビジネスから脱却して、本格的なIDEを作ることに集中できる」と期待した。しかし実際のシグナルは逆方向を示していると言う。エージェント機能の強化、プラットフォーム化——Cursorは「コードファースト」から離れようとしており、IDEは「エンタープライズ向けエージェントベンダーへの道で引き継いだもの」に見えてきている、と著者は評する。
先駆者への敬意、それでもキャンセル
ここまで述べてきた不満——遅延するVSCode、繰り返されるAgent強制、放置されるバグ、削除されるフィードバック——が積み重なった末に、著者はキャンセルに至った。ただし、著者はCursorを全否定しているわけではない。
ハンクごとに承認できるインライン差分、ベクター埋め込みによるコードベース全体の把握、次の編集箇所に飛ぶタブ補完——これらはCursorが最初に実用化し、今では他のすべてのエディタの「当たり前」になった機能だと評価している。
「CursorはAIコーディングの道を切り開いた。今私が使うほぼすべてのAIコーディングツールは、Cursorが舗装した道の上を歩いている」
それでも、著者はキャンセルした。「またIDEの会社に戻ると決めた日には、喜んで戻ってくる。それまではVSCodeに戻る」と締めくくっている。
詳細はCancelling Cursorを参照していただきたい。
