7月31日、The Next Webが「Oracle adds Google's Gemini to its apps; stock jumps 8%」と題した記事を公開した。OracleがクラウドERP「NetSuite」を含む自社エンタープライズアプリにGoogle GeminiのAIモデルを統合すると発表し、Oracleの株価が最大8.4%急騰したという、一見矛盾した出来事の詳細を伝えている。クラウド市場での競合であるGoogleのモデルを、あえて自社製品の中枢に採用した判断の背景を以下に紹介する。
クラウドのライバルのAIを、自社製品の中枢に
Oracleは7月30日、Google Cloudとのパートナーシップを拡大し、GeminiをOracle Fusion ApplicationsおよびNetSuiteに統合すると発表した。
統合されるのは2モデルだ。元記事ではそれぞれ軽量タスク向けに最適化されたモデルと、高度な推論・動画・プレゼンテーション作成といったクリエイティブな重い処理を担うモデルとして紹介されている(モデルの正確な型番については元記事を直接確認されたい)。両モデルは、Oracleが既に提供しているCohereやMetaのモデルに加わる形で提供される。
Cohereはエンタープライズ向けに特化した大規模言語モデルを提供するAIスタートアップであり、OracleはCohereをはじめとする複数のAIプロバイダーのモデルを既に自社プラットフォームに組み込んでいる。今回のGemini統合は、その選択肢をさらに広げるものだ。
GeminiモデルはGoogleの「Vertex AI」経由で「Oracle AI Agent Studio for Fusion Applications」に組み込まれ、Oracle Fusion全体およびNetSuiteの埋め込みAI機能を支える。NetSuiteは4万4,000社超の顧客を抱えるクラウドERP(Enterprise Resource Planning)製品であり、在庫管理・財務・人事など企業の基幹業務を統合管理するプラットフォームだ。この統合でGoogleは、Oracle顧客の業務システムの中枢に入り込むことになる。
Wall Streetはこれを歓迎した。Oracleの株価は最大8.4%上昇し、127.64ドルに達したと元記事は報じている(同日の発表内容全体が複合的に評価された結果とみられ、Gemini統合のみが直接の原因とは断定できない点には留意が必要だ)。
「1モデルで全部」の時代は終わった
Oracleの狙いは、顧客を自社AIに縛り付けるのではなく、用途に合わせてモデルを選べる環境を提供することにある。
「組織は、各問題に最適なAIモデルを選ぶ柔軟性が必要だ。Oracle Fusionはその推論を、ガバナンスの効いたワークフロー・承認・トランザクションを通じて実際のアクションへと変える」
──これはOracle アプリケーション開発担当のChris Leone氏の発言だ。
エンタープライズAIの世界では今、「特定のジョブに最適なモデルを選ぶ」マルチモデル戦略が主流になりつつある。マルチモデル戦略とは、単一のAIモデルに依存するのではなく、タスクのコスト・精度・速度の特性に応じて複数のモデルを使い分けるアーキテクチャ方針を指す。OracleはCohere、Meta、そして今回のGeminiとモデルの選択肢を広げており、顧客はジョブの性質に応じてモデルを使い分けられる。エンタープライズ以外の読者向けに補足すると、この戦略は「最強のAIを1つ選ぶ」競争から「最適な組み合わせを設計する」競争へと、業界の軸足が移っていることを意味する。
ライバル同士の、奇妙な深化
OracleとGoogleはクラウド市場の競合だが、インフラレベルからエージェント型AIまで、協業の幅は広がり続けている。
注目すべき点がある。OracleにはOpenAIとのインフラ面での提携関係があるとされているが、今回のアプリ統合で選ばれたのはGoogleのGeminiだった。元記事における「OpenAIとのパートナーシップ規模」に関する具体的な数字については、元記事の原文を直接確認の上、読み取っていただきたい(本記事では数字の誇張・誤訳リスクを避けるため引用を控える)。いずれにせよ、OpenAIとの関係を持ちながらアプリ統合では競合陣営のモデルを選んだ構図は、Oracleの「ベンダーロックインを避ける」姿勢を体現している。
Googleにとっては、NetSuiteの4万4,000社超を含むOracle顧客基盤へのアクセスルートを手に入れたことになる。
楽観だけでは語れないリスク
ただし、業界アナリストは手放しで称賛していない。Gartnerアナリストのバラジ・アババトゥッラ氏はThe Registerに対し、「聞こえはいいが、慎重になるべきだ。表面ほど輝かしくはない。内部には課題がある」とコメントしている。
最大の課題はアカウンタビリティ(説明責任)だ。自律型エージェントが高速で誤った判断を下した場合、誰も気づかないうちにエラーが連鎖するリスクがある。誰がその責任を負うのかは、現時点で明確でない。Oracleはモニタリングと監査ツールの提供を挙げているが、アババトゥッラ氏は「この問いに答えられたベンダーはまだいない」と指摘する。
エンタープライズAIの競争は、「どのモデルを自社開発するか」から「どのモデルの組み合わせを顧客に提供するか」へとシフトしている。今回のOracleとGoogleの動きは、その流れを象徴する事例だ。
詳細はOracle adds Google's Gemini to its apps; stock jumps 8%を参照していただきたい。