8月1日、Wiredが「Chinese AI Researchers Are Finding Their Voice on X」と題した記事を公開した。DeepSeek R1が世界を席巻した2025年初頭以降、中国のAI研究者たちがXへの発信を急速に活発化させており、グローバルなAI議論の場で存在感を高めている。その背景には、国内プラットフォームの構造的な質低下と、DeepSeekの世界的ヒットがもたらした「国際的ブランディングへの意識変革」がある。
「突然現れた」わけではなかった
DeepSeek R1やKimi K3が世界を驚かせたとき、シリコンバレーでは「どこからともなく現れた」という語られ方が主流だった。だが実態は異なる。中国のAI研究者たちは、Xで継続的に情報発信を続けていた。
Wiredの記者Zeyi Yangは、Kimi K3を開発したMoonshot AIについて調べた結果、30以上のXアカウントを確認したと報告している。共同創業者2名、元従業員や協力者も含まれ、これらは休眠アカウントではない。新しいリリースや研究論文について議論し、欧米の研究者と交流し、個人的な生活や趣味まで発信している。
DeepSeek社員の中には、政府にパスポートを没収され出国できない状態にある者もいるとされているが、それでも定期的にXへ投稿し、採用情報まで発信しているという。
なぜXなのか
中国国内のプラットフォームでは、技術的な議論が成立しにくいという構造的な問題がある。
かつて知識層の発信の場だった**Zhihu(知乎、中国版Quoraに相当するQ&Aプラットフォーム)**は、2020年以降フィクションコンテンツへと傾倒し、専門家の投稿者が離れていった。著名な中国人数学者も、2018年の時点でコンテンツの質低下を理由にZhihuへの投稿をやめると宣言していたと元記事は触れている。
若い都市部ユーザーに人気の**Xiaohongshu(小紅書、RedNote)**には最近、若手AI研究者が進出しているが、読者層の技術的リテラシーはXには及ばない。
Moonshot内部の研究者(匿名)はこう語る。同社が3月に研究論文を公開した際、Zhihu・Xiaohongshuでは「著者の年齢や親が誰か」という話題で持ちきりだったが、技術的な内容を真剣に議論したのは海外の読者だったという。Zhihuは意地の悪いコメントも多く、AIが生成したスパムコンテンツ(いわゆるAIスロップ)の問題も深刻だと指摘している。
Moonshot AIに関わるスタートアップ・Evolvent AIの共同創業者でKimi K2.5の開発にも携わったMeng Fanqing氏は「XはAIの議論にとって今の最良のコミュニティだ。中国と海外の両方のオーディエンスがいて、レコメンドアルゴリズムも同じ領域の人々をうまく繋いでくれる」と話す。
DeepSeek R1がきっかけになった
Meng氏がXで積極的に発信を始めたのは2025年半ば。年初にDeepSeek R1が世界的に拡散したことで、中国のAI業界に一気に注目が集まり、多くの研究者が「国際的なブランディングを意識し始めた」と言う。
元Hugging Face研究者でAIアナリストのTiezhen Wang氏は、別の要因も指摘する。OpenAIやAnthropicの研究者は、企業規模の拡大に伴いオンラインでの情報共有に消極的になっている。「モデルのアーキテクチャや学習方法が企業秘密になりつつあり、投稿が減っている」とWang氏は説明する。その空白を、中国の研究者たちが埋めている形だ。
マーケティングとしての側面
研究者個人の発信は、所属企業のブランド向上にも直結する。Wang氏は2025年にMoonshot AIへ助言する機会があり、研究者をSNSでより前面に出すよう勧めたという。新モデルや論文のリリース時に「公式発表ではなく、その人自身の言葉で投稿する方が面白い。フィードバックも集まりやすく、他の研究者との協業につながる可能性もある」と語っている。
Moonshot AIはその点でも際立った存在だ。CEOのオフィスにはロックバンドのポスターが貼られており、社名「月之暗面」はPink Floydのアルバム『The Dark Side of the Moon』に由来する。
「中国についての誤解」を減らす効果
Wang氏はより大きな視点でこの動きを評価する。「中国が何をしているかについて、多くの人が根拠のない思い込みを持っている。Xは、それを正しく理解するための窓口になっている」と述べる。中国のAI研究者が自らの言葉で発信することは、憶測に基づく議論を減らすという意味で、米国にとっても有益だという立場だ。
詳細はChinese AI Researchers Are Finding Their Voice on Xを参照していただきたい。