7月28日、Cybersecurity Diveが「Microsoft launches agentic security platform designed to combat AI-based attacks」と題した記事を公開した。守る側もAIを自律的に動かさなければ、攻撃の速度・規模に追いつけない——Microsoftのセキュリティ部門トップが放ったこの言葉が、今回の発表の核心を突いている。AIが攻撃を自動化する時代に、人間の介在を前提とした防御体制は限界を迎えつつある。Microsoftが発表したアジェンティックセキュリティプラットフォーム「Project Perception」と新AIモデル「MAI-Cyber-1-Flash」は、その問いへの実装上の回答だ。
「AIが自律的に攻撃する時代」への対応
Microsoftのセキュリティ部門エグゼクティブバイスプレジデントであるHayete Gallot氏は、サンフランシスコで開催された発表イベントでこう述べた。
「AIによる支援型攻撃から、AIが主導する攻撃へ、そして今や自律型AIが顧客を直接攻撃する時代になった。サイバーセキュリティの物理的な前提が根本から変わった」
この発言の背景には、脅威の急速な進化がある。2025年5月には、GoogleのThreat Intelligence Group(GTIG)が、ハッカーがAIを用いてゼロデイエクスプロイトを実際に開発・悪用しようとした事例を報告した。研究者が開発者に通知して大規模攻撃を防いだものの、「AI活用による大規模エクスプロイトが近い将来に現実的なリスクになる」という警鐘として業界に受け止められた。
こうした背景を踏まえ、Microsoftが今回打ち出したのが「Project Perception」と「MAI-Cyber-1-Flash」の2本柱だ。
Project Perception:レッド・ブルー・グリーンチームをAIで統合
Project Perceptionは、複数のAIエージェントを組み合わせたアジェンティック(Agentic)セキュリティシステムである。「アジェンティック」とは、AIが人間の逐次指示を待たずに目標に向かって自律的に行動・判断するアーキテクチャを指す概念で、近年のLLMベースのシステム設計において急速に普及している言葉だ。
具体的には、レッドチーム(攻撃シミュレーション)、ブルーチーム(検知・防御)、グリーンチーム(修復・改善)の各エージェントが協調して動作し、組織の環境内に潜む脆弱性や侵入経路を、攻撃者に発見される前に特定・対処することを目的としている。セキュリティの文脈では、レッドチームが擬似的な攻撃者役、ブルーチームが防御側、グリーンチームが検出した問題の修復と体制強化を担う役割として区別されることが多い。
注目すべき点は、こうした自律型AIがほぼ人間の介入なしに攻撃経路を発見・生成できるようになってきたという現実だ。守る側もAIを自律的に動かさなければ、攻撃の速度・規模に追いつけないという判断がこのシステムの根底にある。従来の人手中心のセキュリティオペレーションでは、AIが秒単位で生成する攻撃パターンに応答しきれないという課題が背景にある。
MAI-Cyber-1-Flash:自社データで鍛えた脆弱性発見モデル
MAI-Cyber-1-Flashは、脆弱性の特定と修正を支援するAIモデルで、MicrosoftのMDASHコードスキャンハーネスとの統合を通じて機能する。MDASHはMicrosoftが社内で運用するコード解析基盤であり、大規模なコードベースに対して自動的にセキュリティ上の問題を検出・トリアージする仕組みを指す。MAI-Cyber-1-Flashはこの基盤と連携することで、単体モデルでは難しいスケールの脆弱性スキャンを実現するとされている。
ForresterのプリンシパルアナリストであるAllie Mellen氏はCybersecurity Diveにこう語った。
「自社のデータと専門知識に基づいて独自モデルを投入することで、Microsoftのデータに対する推論と製品との連携において最適化されたモデルになる」
Microsoftは自社が収集する数兆規模のシグナル(セキュリティテレメトリ。原文では"trillions of signals"と表現されている)を学習に活用できる立場にあり、それが他社モデルに対する優位性になるとしている。加えて、競合モデルと比較してコスト面でも優れているとMicrosoftは主張しているが、具体的な比較対象や根拠の詳細は元記事においても明示されておらず、Microsoftの主張として留保付きで受け取る必要がある。
業界全体の流れとの接点
今回の発表は、Microsoft単体の動きにとどまらず、業界全体でAIを使ったセキュリティへの移行が加速していることを示している。従来のシグネチャベースや人手中心の防御では、AIが武器化されたサイバー攻撃のスピードとスケールには対応しきれなくなりつつある。
フロンティアAIモデルの登場により、セキュリティチームはかつてないスピードと量で脆弱性を発見できるようになった一方で、犯罪者集団や国家支援型ハッカーも同様に、脆弱性の発見・武器化を加速させている。攻撃者がAIエージェントを使って偵察・侵入・横展開を自動化するシナリオが現実味を帯びる中、Project Perceptionのようにレッド・ブルー・グリーンの各フェーズをAIエージェントで一気通貫させるアーキテクチャは、今後のセキュリティ製品設計の一つの雛形になりうる。今回の発表は、こうした「AIによるイタチごっこ」を守る側が制するための、Microsoftなりの回答と言える。
詳細はMicrosoft launches agentic security platform designed to combat AI-based attacksを参照していただきたい。