7月31日、CNBCが「Dwindling cash and soaring memory costs: Tech's AI buildout has ballooning price tag」と題した記事を公開した。AIブームが始まっておよそ4年が経過した今、大手テック企業のフリーキャッシュフロー(FCF)が軒並み悪化しつつある。最も収益性の高い企業の一つとされてきたAlphabetが史上初めてFCFのマイナス転落を記録し、Amazonも直近12か月のFCFがマイナス76億ドルに沈んだ。その背景にあるのは、膨張するAIインフラ投資と予想外の速度で高騰するメモリ価格だ。
AIビルドアウトの請求書:数字で見るコスト構造
Goldman Sachsの試算によれば、メガキャップ企業(時価総額上位の巨大テック企業)のAI関連支出は2026年に7,650億ドルに達し、2027年には1.2兆ドル近くまで膨らむ見込みだ。
その最前線にいるのがAmazonである。同社は2026年の設備投資(capex)見通しを2,200億ドルに引き上げた。これは主要ハイパースケーラー(AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudのような大規模クラウド事業者)の中で最大の数字だ。しかし同時に、直近12か月のFCFがマイナス76億ドルであることも開示している。なお、このFCFマイナスはあくまで「直近12か月」という計測期間における数値であり、設備投資の急拡大に起因するものだ。
Alphabetはさらに衝撃的な数字を出した。同社のFCFは史上初めてマイナスに転落した。「最も収益性の高い企業の一つ」と評されてきたGoogleの親会社がこうした事態に直面するのは、業界全体にとって無視できないシグナルだ。MetaもQ2決算で前年同期比91%減のキャッシュ生成という数字を公表している。
AmazonのFCFマイナスが「設備投資拡大フェーズにおける一時的な構造変化」を示すのに対し、AlphabetのFCF「史上初のマイナス転落」は同社の財務史において特別な意味を持つ。両社のFCF悪化は同じ文脈で起きているが、その深刻さの性質は異なる点に注意が必要だ。
コスト上昇の主犯:メモリ価格の高騰
単純な投資拡大だけではない。予想を上回る速度でコストが膨らんでいる最大の要因は、メモリ価格の急騰だ。
AI処理に使われるGPU(特にNvidia製)は大量のメモリを必要とするが、そのメモリを供給できるベンダーは限られている。需要の爆発に供給が追いつかず、価格が急上昇している。
Tesla CEOのElon Muskは自社の決算コールでメモリ価格を「insane(正気じゃない)」と表現した。Amazon CEOのAndy Jassyは、メモリチップの「インフレ価格」がcapex見通しを引き上げた主因だと説明している。
一方でMuskは、メモリベンダーのMicronが「非常に重要なアロケーションを合理的な条件で提供してくれた」と感謝を述べており、安定的なメモリ調達がいかに希少であるかを示している。
Appleへの波及
ハイパースケーラーと異なる立場でこの問題に直面しているのがAppleだ。Appleのメモリ問題はコストではなく収益の問題として現れている。MacやiPadではすでに値上げを実施済みで、多くのアナリストが年内のiPhone値上げを予測している。
CEO Tim Cookは決算コールで「9月以降も、メモリの市場価格が上昇し続けることで、事業への影響が拡大する可能性がある」と述べ、今年中に状況が緩和される見込みはないとした。
投資家の反応は二極化
今回の決算シーズンで市場の反応は割れた。
- Microsoft:予想を上回る業績にcapex引き上げを組み合わせ、2008年以来最大の1日上昇率を記録
- Amazon:AWS(Amazon Web Services)の急成長が株価を押し上げた。Evercore ISIのMark Mahaney氏は「収益成長だけでなく、収益性も上昇している」と評価
- Alphabet・Tesla:FCFマイナス転落と支出加速の見通しを示したことで株価下落
- Meta:弱い業績予想とAI収益化の不透明さから株価が急落
Wedbushのアナリストはレポートの中でAmazonを「カバーするハイパースケーラーの中で最もクリーンな上振れ」と評価しつつ、AlphabetとAmazonの株価反応の違いを「同様に強いファンダメンタルズでも、ROI(投資対効果)の説明の明確さが市場の評価を分けた」と分析している。
「AIトレード」全体のリスク
JPMorganのDana Harlap氏は先週のレポートで「これはすべて一つの巨大なAIトレードではないか」という問いを立てた。Googleがクラウド82%成長という強い数字を出しながら株価が下落したことは、市場がROIを厳しく見始めていることを示している。
さらに背景として、中国AIラボが低コストの高性能モデル(いわゆるオープンウェイトモデル:ダウンロードして自由に改変・ホスティングできるモデル)を相次いでリリースし、OpenAIやAnthropicの優位性を脅かしている状況がある。元記事によれば両社はそれぞれ約1兆ドルの企業価値評価を受けており、こうした競争激化がAIエコシステム全体のリスクとして意識され始めている。ハイパースケーラーが莫大な設備投資を正当化するだけのROIを確保できるかという問いは、こうした競争環境の変化とも密接に絡んでいる。
Harlap氏は「長期的には、ハイパースケーラーが重い設備投資から許容できるリターンを得られるか否かが、AIエコシステム全体のリターンと相関するだろう」と結論づけている。
Nvidia自身の決算は8月26日に予定されており、メモリ市場とAIインフラ投資の実態をさらに鮮明にするとみられる。
詳細はDwindling cash and soaring memory costs: Tech's AI buildout has ballooning price tagを参照していただきたい。