7月31日、The Next Webが「A German court says AI music maker Suno broke copyright, a first for Europe」と題した記事を公開した。欧州で初めてAI生成音楽に関する拘束力ある判決が下され、その矛先が向いたのは評価額数十億ドル規模のスタートアップだ。「大量にデータを学習させてサービスを立ち上げ、後からライセンスを整える」という業界に広がるアプローチに、ドイツの裁判所がノーを突きつけた。
ミュンヘン地方裁判所がSunoの著作権侵害を認定
ミュンヘン地方裁判所は7月31日、AI音楽生成サービス「Suno」がドイツの著作権管理団体GEMA(Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte)の管理楽曲を無断でトレーニングデータとして使用し、著作権を侵害したと判示した。欧州におけるAI生成音楽に関する初の拘束力ある判決として、業界に大きな波紋を広げている。
GEMAは法廷でSunoの生成音楽と既存の楽曲を並べて再生し、メロディ・ハーモニー・リズムが酷似していることを視覚的・聴覚的に示した。比較対象として挙げられたのは「Forever Young」「Mambo No. 5」「Daddy Cool」など、広く知られた楽曲だ。裁判所はこの主張の核心部分を認め、Sunoがトレーニング中にGEMA管理の6曲を記憶・再生成しており、ライセンスなしでの利用は権利者の権利を侵害すると結論づけた。
Sunoは以前の報道で200万曲以上をスクレイピングしてトレーニングに使用したとされており(TNW既報)、今回の判決はそのビジネスモデルの根幹を直撃する。
「まず作って、後でライセンス」モデルへの打撃
この判決が持つ実務的な重みは大きい。ドイツ法では一審判決は控訴中も執行可能であるため、GEMAはSunoの欧州事業に対して差止命令を申し立てられる。数年単位の法廷闘争を待たずに、即座に事業制限を求められるということだ。
また、裁判所は損害賠償額の算定に向けてSunoに収益情報の開示を命じており、最終的な請求額はこれから膨らむ可能性がある。
Sunoはこの裁判を強く争った。判決直前まで新たな法的主張を提出し、さらに担当裁判官の忌避申立てという異例の強硬手段を講じたが、功を奏さなかった。マサチューセッツ州拠点のSunoは今年初めの資金調達で約54億ドルの評価額がついており(元記事に円換算の記載はないため、ドル表記のみとする)、その評価の根拠となっているビジネスモデルが、ドイツでは違法と認定された形だ。
業界全体に広がる訴訟と和解の動き
Sunoだけが標的ではない。競合のAI音楽サービスUdioも複数の訴訟を抱えており、SonyはUdioに対して3万曲を巡る二度目の提訴に踏み切った。レコード会社の姿勢は「警告」から「全面訴訟」へと移行している。
一方で和解の動きも出ている。SunoとUdioはいずれもWarner Musicと和解し、UdioはUniversalとも条件合意した。またSpotifyとUniversal Music GroupはAIカバーおよびリミックスに関するライセンス契約を締結しており、「裁判ではなくライセンスで市場を整備する」という方向性も模索されている。
ミュンヘンは今やAIと著作権が争われる拠点になりつつある。同裁判所は昨年、OpenAIのChatGPTがドイツ語の歌詞を無断で再現したとして著作権侵害を認定しており、今回が初めての判断ではない。
Sunoの次の一手が業界の分岐点になる
Sunoには控訴・和解・欧州サービスの制限という三択が残されている。どれを選ぶかは、「先に作って後でライセンスを取る」戦略のコストを他のAI企業が見極める上での指標にもなる。
GEMAの立場は一貫している。「著作権で保護された楽曲を使ったトレーニングには権利者の許可が必要」——今回の判決はそのポジションに法的な裏付けを与えた。控訴や米国での並行訴訟など決着まで道は長いが、欧州にはひとつの判例が生まれた。
詳細はA German court says AI music maker Suno broke copyright, a first for Europeを参照していただきたい。