7月30日、Ars Technicaが「With a stateless makeover, new MCP spec targets enterprise scale」と題した記事を公開した。MCPの新仕様はステートフルなセッション管理を廃し、ロードバランサーや水平スケールが当たり前のエンタープライズ環境でも素直に動くアーキテクチャへと作り直されている。ローカル開発ツール向けのプロトタイプから、企業のプロダクションシステムに組み込まれる標準プロトコルへ——今回の改訂はその転換点となる可能性がある。
ステートレス設計への転換が最大の変更点
MCP(Model Context Protocol)の新仕様が2026年7月28日付けで公開された。仕様の変更履歴によると、今回の改訂の核心はステートレス設計への移行だ。
MCPはもともと、ローカルマシン上でAIモデルとローカルアプリケーションを接続することを前提に設計されていた。接続のたびにセッション状態を維持するステートフルな設計が前提だったため、ローカル環境では問題にならないが、エンタープライズ向けの大規模展開では致命的な問題になる。ロードバランサーを挟んだ複数サーバー構成や、水平スケールが要求される環境では、どのサーバーインスタンスがどのセッション状態を持っているかの管理がボトルネックになるためだ。
新仕様ではこの設計を根本から見直し、ステートレスなアーキテクチャへと再設計されている。具体的には、従来の「Streamable HTTP」トランスポートが廃止され、「StreamableHTTP」として統合・整理された。セッションIDの扱いも変化しており、従来はサーバー側がセッションIDを発行してステートフルな接続を維持する設計だったが、新仕様ではセッションIDなしでも動作する構成が標準となり、スケールアウトしやすい構造になっている。これにより、エンタープライズ環境での広範な展開がはるかに現実的になる。
12ヶ月の廃止猶予期間を明文化
もう一つ、エンタープライズ利用を意識した変更が非推奨(deprecation)ポリシーの新設だ。
新ポリシーでは、ある機能が正式に非推奨と宣言されてから実際に削除されるまでの間に、最低12ヶ月の猶予期間を設けることが義務付けられた。例外はセキュリティ上の緊急対応のみに限定されている。
企業システムへの導入を検討するエンジニアやCTOにとって、「ある日突然APIが消える」リスクは導入の大きな障壁になる。この明文化は、MCPを社内インフラへ組み込む際の意思決定を後押しする実務的な変更だ。Streamable HTTPトランスポートの廃止も、この新ポリシーに沿って猶予期間を設けた形で告知されており、既存実装を持つ開発者・企業が移行計画を立てやすい配慮がなされている。
ガバナンス:オープンな標準化プロセスが新仕様を後押し
MCPの運営体制も整理しておく価値がある。
MCPは現在、Agentic AI Foundation(AAIF) によって管理されており、このAAIFはLinux Foundationの傘下に置かれている。MCPはもともとAnthropicが約2年前に提案したプロトコルだが、現在はOpenAI、Google、Microsoft、Amazonも開発に参加している。
ただし、技術的な意思決定の最終権限は各企業ではなく個々のメンテナーに帰属する。現時点では主要メンテナーの多くがAnthropicに在籍しているため、Anthropicの影響力は依然として大きい。
今回のステートレス化は、こうしたオープンなガバナンス体制が機能した成果でもある。特定ベンダーの都合ではなく、エンタープライズ導入を加速させたい複数プレイヤーの共通利害が仕様に反映された形だ。MCPが真の業界標準として機能するには、どの企業の環境にも素直にデプロイできるアーキテクチャが不可欠であり、ステートレス化はその要件に直接応えるものだ。
MCPは当初、AIモデルと開発者ツールの接続を想定していたが、現在ではナレッジワークやクリエイティブ用途の幅広いソフトウェア・サービスにも採用が広がっている。
エンタープライズ対応の文脈
MCP普及の背景には、AIエージェントの企業導入が急速に進む中で「共通インターフェース」の必要性が高まっているという事情がある。各社がバラバラにツール連携を実装する状況から、標準プロトコルに収束させることで開発コストを下げる狙いがある。
今回の仕様変更は、MCPがローカル開発ツール向けのプロトタイプ的な位置づけから脱却し、企業のプロダクションシステムに組み込まれる標準プロトコルとして成熟しようとしている流れの一環だ。ステートレス化・StreamableHTTPへの統合・12ヶ月deprecationポリシーという三つの変更はいずれも、エンタープライズが「使えるかどうか」を判断する際の実務的なハードルを下げることに直結している。仕様書レベルでこれらを明文化したことは、MCPが本格的な企業導入フェーズに入ったことを示す明確なシグナルと読める。
詳細はWith a stateless makeover, new MCP spec targets enterprise scaleを参照していただきたい。