7月28日、StartupHub.aiが「Anthropic's Boris Cherny on Building Claude Code」と題した記事を公開した。AnthropicのBoris Chernyが語るClaude Codeの設計哲学の核心は、新モデルをリリースするたびにシステムプロンプトもコードベースも全削除してゼロから書き直すという、プロダクト開発では珍しい徹底ぶりにある。
モデル更新のたびにコードを全消し——アブレーション駆動の開発プロセス
エンジニアとして最も刺さるのが、Claude Codeのアップデート方針だ。
Chernyによれば、Anthropicは新モデルをリリースするたびに「システムプロンプトを全削除してゼロから書き直す」というアプローチを採っている。これは研究分野で「アブレーション(ablation)」と呼ばれる手法だ。
アブレーションとは、モデルやシステムの構成要素を意図的に取り除いて、各パーツの寄与を定量的に測定する手法。機械学習研究では標準的だが、プロダクト開発でここまで徹底するのは珍しい。
具体的には、システムプロンプト全体を削除した状態から、1行ずつ再追加しながら各行の効果を厳密に検証していく。「このプロンプトの一文が実際に何をしているのか」を曖昧にしないための作業だ。
モデルの世代が変わるたびに前提が崩れるAI開発において、「動いているから触らない」ではなく、毎回白紙から再検証するこの姿勢は、プロダクトの品質担保の観点から理にかなっている。
プロンプトインジェクションへの耐性——3層構造での対策
もう一つの焦点がセキュリティ面だ。AIエージェントの実用化を阻む問題として長らく議論されてきた**プロンプトインジェクション**(外部からの悪意ある指示を埋め込み、AIを乗っ取る攻撃)への対応について、Chernyは詳細を明かした。
この耐性はOpus 4.7から導入されており、Opus 5でさらに強化されたという。なお、Opus 4.7およびOpus 5はいずれもAnthropicのClaudeモデルシリーズの上位グレードに位置づけられる。2026年7月時点でOpus 5は最新の最上位モデルとしてリリースされており、Anthropicの公式モデル一覧でその詳細を確認できる。
実現している仕組みは3層構造だ:
- Anthropicの3年間のアライメント研究の蓄積
- プロンプトインジェクション分類器——入力に悪意ある指示が含まれているかを検出するフィルタリング層
- オートモード分類器
これら3つの層を組み合わせることで、プロンプトインジェクションを「実演してみせることがほぼ不可能な水準」まで抑制しているとChernyは説明した。
※編集部の考察:元記事では「モデルの脳内のニューラル活動を解析する」という表現が登場するが、これは分類器の動作を比喩的に説明したものとみられる。技術的な詳細はAnthropicの公式発表を待つ必要がある。
コードエージェントがターミナルやブラウザを操作する場面では、インジェクション耐性は実用上の必須要件になる。この問題に対して構造的なアプローチで取り組んでいる点は、Claude Codeをエージェントとして業務投入する際の判断材料になるだろう。
背景:なぜ今これが重要か
Claude Codeは2025年5月に一般公開されて以来(参照: Anthropic公式ブログ)、ターミナルで動作するエージェント型コーディングツールとして開発者の間で急速に採用が進んでいる。競合のCursorやGitHub Copilotとは異なり、IDEに依存しないCLIベースの設計が特徴だ。
Chernyはもともとメタ(旧Facebook)出身のエンジニアで、TypeScriptツールチェーンの開発などで知られる。そのバックグラウンドが、Claude Codeの設計における「実装の厳密さ」へのこだわりに表れているとも読める。
アブレーション駆動という研究手法をプロダクト開発の標準工程に組み込む姿勢は、急速に進化するLLMを基盤としたソフトウェア開発全般への示唆でもある。「過去のモデルに合わせて書いたコードは、次のモデルでは通用しない」という前提を正直に受け入れた上で、プロセスを設計しているわけだ。AIコーディングツールを自社プロダクトやワークフローに統合しようとしているチームにとっても、参考になる視点だろう。
詳細はAnthropic's Boris Cherny on Building Claude Codeを参照していただきたい。