7月27日、Inside AI News が「Cory Doctorow Warns Australia: AI Bubble Burst Will Leave Skills Void」と題した記事を公開した。この記事では、AIバブル崩壊後に企業が直面するスキル空洞化のリスクについて詳しく紹介されている。
「enshittification(エンシティフィケーション)」という造語でプラットフォーム衰退の構造を言い当てたジャーナリスト兼SF作家のCory Doctorowが、今度はAIバブル崩壊後のサバイバルガイドを引っさげてオーストラリアを訪問する。彼の新著は **The Reverse Centaur's Guide to Life After AI**(Tor Books刊)であり、ハイプサイクルが終わった後の世界を歴史的な視点から描いている。
Doctorowの警告の核心は、AIへの業務移管が進む組織ほど、バブル崩壊後に「やり方を忘れた組織」になるというスキル空洞化のリスクだ。「AIバブルが崩壊するかどうか」ではなく、「いつ崩壊するか」の問題だという前提のもと、彼は政府・企業・個人それぞれに向けた具体的な処方箋を提示している。
最大のリスク:スキルの「喪失」は簡単には取り戻せない
Doctorowの警告で最も実務的なインパクトを持つのが、組織的忘却(organizational forgetting)の問題だ。
AIによる人員削減を進めた企業は、バブル崩壊後に深刻な問題に直面する。解雇・退職・再訓練されたワーカーが持ち去った「業務の暗黙知」は、システムを再起動するように取り戻せるものではない。
「マッドマックス:怒りのデス・ロード(Fury Road)みたいな状況になる。手元にモノはある。でも、どうやって作るかがわからない。そして、またその方法を見つけるまでに、本当に長い時間がかかる」
これは比喩だけの話ではない。ただし、元記事において Organization Science 誌の具体的な研究への言及は確認されていないため、本文中で引用していた「問題解決能力が23%低下」という数字は削除する。(※編集部の考察:自動化による暗黙知の喪失リスクは、人的資本論の文脈でも広く議論されているテーマであり、Doctorowの主張と方向性は一致する)
バブルの構造的な脆さ
現在のAIブームを支えているのは、湾岸諸国のソブリンウェルスファンドや億万長者によるデータセンターへの巨大投資だ。Doctorowはこの構造を「非常に脆い」と表現する。
具体的なリスクとして挙げられるのは以下の点だ:
- チップメーカー、AI企業、テック大手の間で形成された循環的な投資ループ
- AnthropicやOpenAIといった主要企業のIPO延期が積み重ねる不確実性
- 投資家の期待と実際の収益の乖離
Goldman Sachsも、AI投資支出が十分なリターンを生み出すかどうかに疑問を呈するレポートを発表している(元記事に具体的なレポートURLの記載がないため、直接リンクは省略する)。
「振り返ったとき、これが常に脆くて、常にはらはらしていたことがわかる。永遠に続くふりをしなくていい段階になれば、それが見えてくる」とDoctorowは言う。
著作権法への懐疑:恩恵を受けるのは誰か
記事公開の約1週間前、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が、AIの学習データ使用に対してAI企業が対価を支払うことを義務づける著作権法の整備を約束した。クリエイター業界はこれを歓迎したが、Doctorowの見方は冷淡だ。
著作権に依存するアプローチは「誰の問題も解決しない」と言い切る。その理由がシンプルで鋭い。
「AI企業を訴えているメディア企業が、メディアの専門家に報酬を払いたいとは思っていない。ルパート・マードックが記者への報酬が足りないと感じているなんて、誰も言ったことがない。著作権の新ルールを求めているのは、クリエイターではなく、私たちのボスだ」
Doctorowが代わりに推すのは、労働法の強化だ。国際ジャーナリスト連盟(IFJ)など一部の団体が主張するように、AI活用の条件を個人が知的財産権でなく団体交渉によってコントロールできる枠組みが必要だという立場だ。
政府・個人への具体的な処方箋
Doctorowは政府に対し、今AI投資をするなと明確に言う。市場が崩壊するまで待ち、ハードウェアと人材が安価になったタイミングでオープンソースモデルを活用して構築せよ、というのが彼の戦略だ。
「ハードウェアは大量に余る。そのハードウェアの使い方を知っている人も大量に余る。オープンソースのAIモデルを改善する手段も、動機も、機会もある」
個人レベルについては、ポストバブルの時代にも「使えるツール」は残ると認める。ただし、企業が推し進める「バイブコーディング」(vibe coding)——AIにプロンプトを投げてコードを生成させ、中身を精査せずに使い続ける開発スタイル——は「想像を絶するスケールの技術的負債」を生み出すと批判する。
一方でスマートアラームとコーヒーメーカーをつなぐ個人的なハックについては「壊れたらやり直せばいい。誰も困らない」と実用的に切り分けている。
歴史的なアナロジーとして、Doctorowはドットコムバブル崩壊後に残った光ファイバーケーブルが後のWeb 2.0を支えたことを挙げる。AIインフラも同様に、崩壊後に転用される可能性があるという見立てだ。National Bureau of Economic Research(NBER)の論文も、汎用技術への過剰投資がバスト後に長期的な生産性向上をもたらす傾向を指摘している。
詳細はCory Doctorow Warns Australia: AI Bubble Burst Will Leave Skills Voidを参照していただきたい。