7月27日、Los Angeles Timesが「Cheaper, open and intelligent: Chinese AI models gain ground, as they make inroads in the U.S.」と題した記事を公開した。低コストかつオープンソースを武器に、中国製AIモデルが米国市場で急速に存在感を高めている実態を詳しく報じている。
「十分に良ければ安い方がいい」——現場のエンジニアが動き始めた
Firefoxで知られるMozillaのCTO、Raffi Krikorian氏は、中国のAIスタートアップMoonshot(月之暗面)が7月にリリースしたKimi K3を、日常業務の中心ツールとして数日以内に採用した。それまで使っていたのはAnthropicのモデルだという(元記事での製品名表記を尊重し、本稿では具体的な製品名を伏せる)。「単純に反応が速い」とKrikorian氏は述べている。その前は、中国の大手AIラボZhipu AI(智谱AI)のモデルをカレンダー管理やドキュメント処理に活用していたという。
コスト面での差は圧倒的だ。ノースカロライナ州グリーンズボロの技術系起業家Curt Meinhold氏は次のように語る。
「コードやリサーチ用途では、中国製モデルはかなり近いレベルにある。アウトプット100万トークンあたり数セントで済むなら、30〜50ドルの選択肢は必要ない」
AIの利用コストはトークン(AIが処理するデータの最小単位)あたりで計算される。特に近年普及が加速している「エージェント型AI」——複数のステップを自律的に実行するAI——ではAPIの呼び出し回数が増えるため、トークン単価の差が直接コストに響く。ゴールドマン・サックスは7月のリサーチレポートで、中国AIモデルが広範採用に向けた「臨界段階」に達しつつあると指摘している。
仮想通貨取引所のCoinbaseもコスト削減を目的に中国製モデルへの移行を進めていると報じられており、個人開発者だけでなく企業レベルでの採用が始まっている。
数字で見る普及の勢い
AIモデルの利用状況を横断的に集計するプラットフォームOpenRouterによれば、過去1カ月間の人気モデルランキング上位5件はすべて中国製だったという。
Moonshot「Kimi K3」のリリース翌週のダウンロード数は約93万件(前週比+200%)。米国内だけでも約8万6,000件ダウンロードされ、前週比387%増を記録した(市場調査会社Sensor Tower調べ)。需要が急増しすぎてMoonshotはアプリの新規サブスクリプション受け付けを一時停止する事態にもなった。
オープンソース戦略と米国規制の逆効果
中国製AIモデルの多くはオープンソースとして公開されている。一方、AnthropicやOpenAIの主力モデルはクローズドソースだ。MozillaのKrikorian氏は「オープンなフロンティアがますます中国製になりつつある」と述べており、技術研究グループOmdiaのLian Jye Su氏も、中国ベンダーはオープンソースを梃子に世界的な普及を進めると見ている。
皮肉なのは、米国の輸出規制が中国製モデルの追い風になっている側面だ。元記事によれば、米国側の規制によってAnthropicの一部モデルが一定期間利用できない状況になった直後に、Zhipu AIが新モデルをリリースしたという。ただし規制の具体的な対象製品や政策の詳細については元記事の表現が一次ソースであり、本稿では断定的な記述を避ける。AIシステム評価プラットフォームArenaのCEO、Anastasios Angelopoulos氏は「米国製モデルを制限すると、即座に中国の競合製品に開く空白ができる」と指摘する。
なお、元記事によればトランプ政権は、MoonshotがAnthropicのモデルを元に「隠密な」手法でK3を開発したと主張しているという。Anthropicなどはこうしたモデルの「蒸留(distillation)」——既存モデルの振る舞いを学習データにして能力を引き出す手法——が不正だと主張しているが、中国側はこれを「根拠のない主張」として否定している。
限界と課題
中国製モデルが台頭しているとはいえ、全般的な性能では米国のフロンティアモデルにまだ及ばない部分があるとArenaのAngelopoulos氏は述べている。元記事では具体的なベンチマーク比較には踏み込んでいないが、同氏の見解として「特定タスクでは競争力があるが、汎用的な能力の上限ではギャップが残る」という趣旨の認識が示されている。
また、コスト競争力の背景には持続可能性の問題もある。Zhipu AIは昨年の売上高が前年比132%増の1億700万ドルを記録した一方、純損失も60%増の6億9,400万ドルに膨らんでおり、収益モデルの確立が急務だ。超低価格での提供が長期的に維持できるかどうかは、今後の重要な焦点となる。
中国と米国の競争は「両国のどちらが勝つかではなく、中国のAIラボ同士も激しく競い合っている」(Angelopoulos氏)という段階に移行しつつある。
詳細はCheaper, open and intelligent: Chinese AI models gain ground, as they make inroads in the U.S.を参照していただきたい。