7月25日、The Next Webが「Microsoft swaps out OpenAI, and kills the SMS login」と題した記事を公開した。MicrosoftがOpenAIの画像生成モデルを自社開発モデルに置き換え、コストを約85%削減したという内容だ。1000億ドル超を投じてきたOpenAIとのパートナーシップを持ちながら、実運用コストの圧迫を受けて自社モデルへの移行を加速させているという構図は、AI産業における「開発費」と「推論コスト」の分離という現実を如実に示している。
OpenAIの画像モデルをPowerPointとBingから排除、コストは85%削減
Microsoftは、PowerPointおよびBingにおいてOpenAIの画像生成モデルを自社開発のMAI(Microsoft AI)モデルに切り替えると、Bloombergが報じた。
MicrosoftのAI担当チーフ、Mustafa Suleiman(DeepMindの共同創業者であり、昨年Microsoftに迎えられた人物)はこう述べている。「速く、安く、品質も高く、ユーザー定着率も改善する」。
なかでも重要なのは「安く」の部分だ。SuleimanによるとPowerPointにおけるMAIモデルの運用コストは、OpenAIのモデルと比較して約85%安いという。
Microsoftは既存のパートナーシップの下でOpenAIのモデルを無償で利用できる立場にあるが、実際に動かすための計算コスト(コンピュートコスト)は別途発生する。そのインフラ費用が膨大になっており、これが切り替えの直接的な動機になっている。
今月初め、MicrosoftはOffice系アプリのテキスト処理にもOpenAI・Anthropicのモデルの代替として自社モデルを投入し始めており、一般的なExcelタスクでは既存の外部モデルと同等の性能を低コストで実現したとしている。画像はその次の対象だ。現在、MAIモデルはMicrosoftの全製品のうち50%超で稼働しており、全製品でテスト中だという。T-Mobileや英国のEasyJetはすでにMicrosoftの音声モデルをコールセンターに導入している。
この動きの本質はOpenAIへの依存度低下だ。Microsoftはこれまでのパートナーシップに1000億ドル超を投じてきたが、自社モデルへの移行が進むほど、OpenAIは「パートナー」から「ベンダー(外部調達先)」に近い位置づけへとシフトする。
SMSログインを2027年2月に完全廃止、パスキーへ移行
もう一つの発表はセキュリティ面だ。MicrosoftはビジネスID管理サービスのEntra IDにおいて、9月1日からパスキーをデフォルトのサインイン方式に設定する。さらに2027年2月1日以降はSMSおよび音声通話によるワンタイムコードの送信を完全に停止する。Windows HelloおよびFIDO2セキュリティキーは引き続き使用可能だ。
廃止の理由はAIによるフィッシング攻撃の高度化だ。Microsoftの公式ブログによると、**AIを使ったフィッシングメールのクリック率は54%**であり、従来型の12%を大きく上回る。SMSコードはいったん盗まれれば攻撃者が使えるが、パスキーは被害者の実デバイスそのものが必要になるため、盗んだコードだけでは突破できない。
なお、パスキー(Passkey)とは、パスワードの代わりに端末内の生体認証や暗証番号を使って認証する仕組みで、フィッシングに強い認証標準として業界全体で普及が進んでいる。Googleもすでにセルフィー動画によるサインインを導入しており、パスワード依存からの脱却は加速している。
「切り替えた、と言い切れるほど単純ではない」
Microsoftは自社モデルがOpenAIと同等と主張しているが、それはあくまで「一般的なタスク」に限定した話であり、展開もまだテスト段階が多い。パスキーも万能ではなく、生体認証やハードウェアキーを残しているのはその証左だ。
より本質的な問題として、今回の移行は「OpenAIとの決別」でも「技術的優位の確立」でもない。Microsoftがコントロールしたいのはコスト構造であり、外部モデルへの依存が続くかぎりインフラ費用は自社の意思決定の外にある。自社モデルへの移行はその主導権を取り戻す試みだが、PowerPointやBingといった大量アクセスが発生するコンシューマー向けサービスで「十分な品質」を維持し続けられるかどうかは、今後の実績が問われる。一方、セキュリティの文脈でも同様の構図がある。AIがフィッシング攻撃を高度化させている現実は、MicrosoftがAIを調達コスト削減のために使いつつ、そのAIが生み出す脅威にも対処しなければならないという二重の圧力を生んでいる。
AIはMicrosoftがコストを下げたいものであり、同時にセキュリティを強化せざるを得ない理由でもある。攻撃と調達の両面でAIが戦略を動かしているという点で、今回の二つの発表は表面上は別々の話でありながら、根は同じところにある。
詳細はMicrosoft swaps out OpenAI, and kills the SMS loginを参照していただきたい。