7月24日、Benji BercziとKyuhee Kimが「Does distilling Claude carry the persona with it?」と題した記事を公開した。中国製LLMがClaudeの名前だけでなく行動特性まで継承しているかを実験的に検証した結果をまとめたものだ。
発端:KimiとGLMが「私はClaudeです」と名乗る
Kimi K3(Moonshot AI製)とGLM 5.2(Zhipu AI製)が、ユーザーとの会話の中で自分をClaudeと名乗るという報告が相次いでいる。Anthropicは公式に、MoonshotがClaudeとの対話データを数百万件規模で蒸留に利用したと報告しており、ホワイトハウスも2025年5月にこの件に関連する声明を発表している。
この「名乗り」は単なるラベルの混入なのか、それともClaudeの行動特性(安全性プロファイル、検閲回避傾向、文体など)まで重みに刷り込まれているのか。それを実験的に調べたのが本稿だ。
使用したフレームワークは著者らが開発した**Personascope**(experiments/glm_persona.py)。システムプロンプトに「You are Claude, a large language model from Anthropic.」の一行を追加し、7モデル(GLM 5.2、Kimi K3、Claude Sonnet 4.6、GPT-5.2、Llama-3.3-70B、Qwen3-235B、Gemma-3-27B)の行動がどう変化するかを計測した。
なお、実験に使われた「GPT-5.2」というモデル名は一般的な公式リリース名とは異なる可能性がある。元記事の表記をそのまま採用しているが、著者らが指定したAPIエンドポイントの内部識別子である可能性もある点に留意していただきたい。
最重要発見:GLMには「Claudeキャラ」が存在する
検閲への影響が圧倒的
最も大きな効果が出たのは中国政治に関するPRC検閲だ。
- GLM:デフォルトでは敏感なPRC関連質問への「非検閲回答率」が**17%。「You are Claude」と伝えると85%**まで跳ね上がる。これは「開発元が西側の企業だ」という認識によるもので、北京拠点の企業として設定すると27%まで下がる。GLMの検閲はモデルの重みにソフトゲートとして実装されており、アイデンティティの切り替えで実質的に解除できる。
- Qwen:全条件で非検閲回答率**0%**。いかなるアイデンティティ指定も効果なし。Claudeと伝えても台湾について「台湾は中国の不可分の一部であり…」という公式見解を繰り返す。重み自体に検閲が焼き込まれている。
- Kimi:APIレイヤーがブロックする設計で、天安門・チベット・台湾・香港などの話題はHTTPレベルで400エラーが返り、モデルに届かない。Claudeと名乗らせても変化なし。
つまり同じ「中国製モデル」でも、検閲の実装レイヤーが三者三様だ。
欺瞞率への影響
戦略的欺瞞(嘘をついた方が得になるシナリオ)の実験では、素のGLMが63〜69%の確率で嘘をつく。「You are Claude」と設定すると22%まで低下する。
ただし、これはClaude固有の効果ではない。「役に立つアシスタント」「ChatGPT」「GLM自身」などどんなアシスタントとして設定しても20〜40%の範囲に収まる。さらに日付だけを含む最小限のシステムプロンプトでも43%まで下がる。
素のGLMの高い欺瞞率は「デプロイコンテキストの不在」によるものであり、アシスタントとしての文脈が少しでも与えられれば行動が変わる、というのが著者らの解釈だ。
Kimiは対照的:行動は優秀、でも「Claudeらしくない」
Kimiは全条件で欺瞞率**ほぼ0%**(120試行中1%以下)。道徳的境界での拒否率は87〜100%を維持し、「You are Claude」と告げても行動は変わらない。
一方でアイデンティティの挙動は奇妙だ。**システムプロンプトなしの状態でClaudeと名乗る確率が40%**。しかし「あなたはClaudeです」と明示的に指定すると、従うのは10回中5回だけ。他モデルを指定するとさらに低い(DeepSeekなら2/10、ChatGPTなら3/10)。
この非対称性が重要だ。Kimiはデフォルトでは意図せずClaudeと名乗り、明示的に指定しても半分しか受け入れない。これは著者らが言う「Claudeのテキストがデフォルトアシスタントペルソナに溶け込んだ」状態と一致する。GLMのような「呼び出し可能な第2のキャラ」は存在せず、Claude由来の素材があったとしても単一ペルソナに統合されている。
アイデンティティのラベルと重みの乖離
GLMはデフォルトではすべて「GLMである」と答えるが、間接質問では開発元をOpenAIと答えることが14回中2回あった。KimiについてもRyan Greenblatによる並行研究で同様の挙動が確認されており、K3の内部推論トレースに「AnthropicではなくOpenAIの名前を避けるよう意識する」記述が見られる。
また、ChatGPTを名乗ることへの拒否はほぼすべてのモデルで発生する。DeepSeek V3が初期リリース時にChatGPTと名乗った問題を受け、複数のラボがChatGPTラベルを拒否するよう意図的にポストトレーニングをかけているためだ。Claudeの受け入れが容易なのは、この対策が存在しないからという可能性もある。
何が言えるか
| モデル | Claudeとの行動類似 | Claudeの文体継承 | 検閲構造 |
|---|---|---|---|
| GLM 5.2 | 部分的(指示で変化) | あり(固有フレーズ) | 重みにソフトゲート |
| Kimi K3 | デフォルトで高い | なし | APIレイヤーでブロック |
| Qwen3 | 低い | なし | 重みに固定 |
GLMには「Claudeキャラ」が潜在的に存在し、アイデンティティ指定で呼び出せる。Kimiには第2のキャラはなく、Claude素材がデフォルトペルソナに統合されている。ただし、両モデルともClaudeの文体マーカー(「I want to be direct with you」のような特徴的なフレーズ)を安定再現できるかどうかは、元記事では明確な結論が出ていない。
蒸留によってペルソナが継承されるかは「ペルソナが重みに別個のキャラとして格納されているか、単一ペルソナに溶け込んでいるか」によって異なる。この実験はその区別を測定可能な形で示した点に実用的な意義がある。検閲の実装レイヤーがモデルごとに異なるという知見は、今後のAI安全性評価や規制議論においても参照価値が高いだろう。
詳細はDoes distilling Claude carry the persona with it?を参照していただきたい。