7月25日、Futurismが「Computer Science Enrollment Now Declining Under Dark Cloud of AI」と題した記事を公開した。「コードを学べば六桁の年収が手に入る」——その常識が、約20年ぶりのCS入学者数減少という数字によって揺らぎ始めている。AIが雇用を奪うという不安は「将来の話」ではなく、すでに進路選択に影響を与えている可能性がある。
約20年ぶりのCS入学者数減少
スタンフォード大学の経済学者Jacob Lightの研究によると、2025〜26年度の学年において、コンピューターサイエンス専攻への入学者数が約20年ぶりに減少した。Business Insiderが報じたこの調査結果は、「コードを学べば六桁(10万ドル超)の年収が手に入る」という長年の常識に、大きな疑問符を突きつけるものだ。
なお、Lightのこの研究は現時点では査読論文としての発表ではなく、速報的な分析として報じられたものであり、因果関係の確定的な結論には至っていない点には留意が必要だ。
さらに、National Student Clearinghouse Research Centerの別の調査でも、2025年秋学期におけるIT系学位(コンピューター・情報科学および関連サービス)の学部入学者数が8.1%減という急落を記録したことが判明している。
原因はAIだけではない——研究者の慎重な見方
Lightは、この減少がAIと関連している可能性を認めつつも、単純に「AIがコーディング職を奪った結果」とは断定していない。
彼が挙げた複数の要因は以下の通りだ:
- 生成AIによる学習プロセスの変化(課題のこなし方が変わった)
- CS系スキルのリターンに対する学生の期待値の変化
- AI導入を部分的に反映した労働市場の変化への対応
- AI無関係のテック業界全体の低迷
- その他の学生需要の変化
Lightは「今回の入学者数の動向は記述的なエビデンスとして扱う。ChatGPTやAI exposure(AIへの露出度・影響度)が学生需要に与えた因果効果の推定ではない」と明言している。ここでいう「AI exposure」とは、AIによって業務が代替・変容されやすい職種・スキル領域への近接度を指す概念であり、単純な「AIとの接触頻度」とは異なる点に注意が必要だ。
「消えたCS志願者」の行き先
Washington Postが同じNational Student Clearinghouseのデータを分析したところ、興味深い傾向が見えてきた。CS専攻から離れた学生の一部は、データアナリティクスやデータサイエンスといった隣接分野に流れている可能性がある。CS全体への不信というよりも、より「AI時代に生き残れる」と感じられる分野への移動が起きているという見方だ。
AIに代替されにくいとされるデータ活用・分析系のスキルへの関心が高まっている背景には、純粋なコーディング能力の市場価値が相対的に低下しつつあるという学生側の現実的な判断がある。
採用市場の現実:2026年だけで12万人超が解雇
学生の嗅覚は、データとも一致している。業界の解雇追跡サイトLayoffs.fyiによると、2026年だけですでに12万人を超えるテック系雇用が失われた。MetaやGoogleなど大手がAI投資を加速させる一方で、人員削減を進めているのが実態だ。
また別の調査では、2025年に発表された解雇のうち5万4,000件超でAIが理由として言及された。ただし、AIが実際に雇用を代替したのか、それとも別の経営判断を正当化するための「スケープゴート」として使われたのかは、現在も議論が続いている。
エンジニアにとって何が変わるか
CS専攻の入学者減少が意味するのは、単なる志望動向の揺れではなく、「コードを書く人材の価値」に対する社会的な評価の変化かもしれない。16人のノーベル賞受賞経済学者がAIによる大規模な雇用喪失に警鐘を鳴らしている(Futurism報道)中、この動向は今後も注視が必要だ。
ただし、現時点では「AIがCS雇用を破壊した」と断言できるエビデンスは揃っていない。Lightをはじめとする研究者たちが強調するように、複数の構造的要因が絡み合った結果として捉えるべき動向だ。問いへの答えはまだ出ていないが、進路選択という「市場の声」がすでに動き始めているという事実は重い。
詳細はComputer Science Enrollment Now Declining Under Dark Cloud of AIを参照していただきたい。