7月24日、BleepingComputerが「Fake Claude app promoted by Bing ads pushes SectopRAT malware」と題した記事を公開した。Bingの広告経由で偽のClaudeデスクトップアプリを装ったマルウェア「SectopRAT」が配布されたマルバタイジングキャンペーンについて詳報している。正規サービスの信頼を逆手に取った手口で、わずか2日間で少なくとも29組織が侵害されたという事実は、AIツールへの関心の高まりが攻撃者にとっても格好の標的になりつつあることを示している。
Claudeの正規ドメインを踏み台にした巧妙な手口
今回の攻撃が特に厄介な点は、Anthropicの正規ドメイン(claude.ai)上にホストされたClaudeアーティファクトを悪用していることだ。攻撃者はBingの有料広告枠に偽のClaudeデスクトップアプリの広告を掲載し、クリックしたユーザーをその悪意あるアーティファクトへ誘導した。
アーティファクトはダウンロードポータルを模した見た目で、訪問者をClaudeDesktop.exeというインストーラーが置かれた外部サイトへ転送する。Huntressの研究者によれば、このアーティファクトはAnthropicが削除するまでに7,100回ダウンロードされ、7月21〜22日の2日間だけで少なくとも29組織が侵害された。Huntressはこのキャンペーンを「FakeAgent」と命名している。
Claudeアーティファクトを悪用してマルウェアを配布する手口は今年初めにも確認されており、当時はClickFix手法でmacOSマルウェアを配布するケースが報告されていた。正規ドメインからコンテンツが配信されるため、ブラウザのアドレスバーやセキュリティツールによる検知をすり抜けやすいという構造的な問題がある。マルバタイジング自体は以前から存在する攻撃手法だが、生成AIツールへの注目度が高まるにつれ、その名を騙った事例が急増している傾向がある。
感染チェーンの技術的な詳細
インストーラー(ClaudeDesktop.exe)の中身は、正規のJetBrains Chromiumコンポーネントだ。これ自体は無害なバイナリだが、DLLサイドローディングと呼ばれる技法で悪意あるDLL(libcef.dll)を読み込み、SectopRATをメモリ上に展開する。
永続化にはDockerDesktop.exeという別の実行ファイルが使われ、Windowsのスケジュールタスクに登録される。検体には以下のような解析妨害機構が実装されている:
- VMProtectによるパッキング
- シェーダーのタイミングチェック
- GPUおよびVRAMのチェック
- 仮想マシン(VM)検出
C2(コマンド&コントロール)サーバーのアドレス取得にはEtherHidingという技術が使われている。これはBinanceのBNB Smart Chain上のトランザクションを通じてC2アドレスを取得する手法で、ブロックチェーンの不変性を悪用することでインフラの検出・停止を困難にする。
SectopRATとは何か
SectopRAT(別名:ArechClient2)は2019年から活動するRAT(Remote Access Trojan)兼情報窃取型マルウェアだ。長年にわたって改良が重ねられており、複数の攻撃グループに採用されてきた実績を持つ。主な窃取対象は以下のとおり:
- ブラウザのパスワード・Cookie・ログイン情報
- クレジットカード情報
- FTP認証情報
- Discord、Telegramなどのメッセージングクライアントのデータ
- Steam、VPN製品のデータ
加えてHVNC(Hidden Virtual Network Computing)機能を持つ。これは被害者の画面上に表示されない隠れたデスクトップセッションを生成し、攻撃者がリアルタイムで遠隔操作できる機能だ。単なる情報窃取にとどまらず、操作権限まで取得される点で被害が深刻になりやすい。
SectopRATは最近も、CastleLoaderキャンペーンやClickFix攻撃での配布が確認されており、依然として活発に使われている。
興味深い逆説:解析にClaude Opus 4.8を使用
Huntressは今回の解析において、攻撃に使われたClaudeとは別のモデル「Claude Opus 4.8」(元記事の表記に準拠)を使って分析を補助したと報告している。シェーダーのエミュレーション、暗号処理の再構成、.NETコードの解析にAIを活用し、復号した.NETペイロードをSectopRAT系の操作として特定することに成功した。
インフラ分析の結果、2025年12月以降に同一メールアドレスで登録された10のドメインが発見された。そのうち1つは以前StealCの配布に使われており、Operation Endgameで押収されたドメインとの関連も確認された。ただし、FakeAgentキャンペーンを既知の特定脅威クラスターに帰属させるには証拠が不十分だとHuntressは述べている。
対策
Huntressは、ソフトウェアを探す際は検索結果(特にスポンサー広告)を経由せず、公式サイトや信頼できるダウンロードポータルから直接入手するよう推奨している。AIツールの人気の高まりとともに、その名を騙ったマルバタイジングは今後も継続するとみられる。
詳細はFake Claude app promoted by Bing ads pushes SectopRAT malwareを参照していただきたい。