7月25日、TFTC.ioが「AI Earnings Boom Hides $549B Depreciation Bill Coming Due」と題した記事を公開した。ハイパースケーラー5社のAI設備投資が生む巨大な繰延コストが、S&P500の「好決算」の陰に隠れているリスクについて詳しく論じている。なお、TFTC.ioはビットコイン推進派として知られる金融・テクノロジーメディアであり、AI大規模投資に批判的な論調を取りやすい傾向がある。本記事の数字・論旨はその観点を踏まえて参照されたい。
「記録的な好決算」の正体
S&P500は2四半期連続で20%超の増益を記録している。2026年通期の増益率コンセンサス予想は2月時点の約14%から現在23%超へと上方修正された。例年この時期には約2%引き下げられるのが通例だが、今年は逆に約9ポイント上振れている。
RIA AdvisorsのチーフポートフォリオストラテジストであるLance Robertsは、この「好決算」の構造的な問題を指摘する。AIインフラへの支出は資本的支出(CapEx)として計上され、減価償却費として数年にわたって費用化される。つまり、キャッシュは今出ていくが、費用は後から来る。報告利益の急増は、未来から借りてきたものだという論旨だ。
AlphabetのQ2 2026決算はその典型例として挙げられている。見出しには「EPS 294%増」と躍った。しかし、AnthropicとSpaceXの持分に係る評価益(紙の上の利益)を除くと、コアEPSは約2.85ドルで、予想の2.88ドルをわずかに下回った。評価益の規模として元記事では約990億ドルという数字が示されているが、Alphabetの年間売上規模に匹敵する桁であるため、読者は実際のSECファイリングや決算資料で確認することを推奨する。Q2単独でAlphabetは資本的支出に449億ドルを投じ、フリーキャッシュフローはマイナス59億ドルに転落した。営業利益が408億ドルに達する中でのことだ。キャッシュはすでに出ていった。報告利益は揺らいでいない。
$5,490億の「繰延コスト」という時限爆弾
Alphabet、Amazon、Meta、Microsoft、Oracleの5社(いわゆるハイパースケーラー)が2025年に支出したCapExは、CreditSightsとEpoch AIのSECファイリングに基づく集計でそれぞれ約4,430〜4,480億ドル。Robertsの2026年推計では約7,600億ドルに達する見通しで、CreditSightsの約7,500億ドルという独自推計とも整合する。
一方、同年に計上が見込まれる減価償却費は約2,110億ドルにとどまる。差額は約5,490億ドル。この金額がバランスシート上に積み上がっている。
なぜこのギャップが生じるのか。データセンターはまだ建設中のものが多く、減価償却の開始は資産が稼働してからだ。建設中の資産は償却されない。
Zion Research GroupのDavid Zionはこの問題を直接指摘し、「コンセンサスの減価償却費推計は系統的に過小評価されている可能性がある」と警告している(Robertsの分析で引用)。Morgan StanleyのTodd Castagnoは現在の局面を「誰もが好調に見える黄金の窓」と表現する。GPUを売ったチップメーカーは即座に売上を計上し、買ったハイパースケーラーはコストを数年に分散する。両者が同時に健全に見える構造が、サイクルを実態より長持ちしているように見せている。
キャッシュフローが語る現実
Robertsの推計で最も直接的な数字を示す。以下はいずれもRobertsによるアナリスト推計であり、報告済みの実績値ではない点に注意が必要だ。
- ハイパースケーラー5社の合算純利益(2026年予想):約5,060億ドル(前年比25%増)
- 同合算フリーキャッシュフロー(2026年予想):約160億ドル(前年比91%減)
純利益は増えるが、フリーキャッシュフローはほぼ消える。この乖離こそが会計上の時間差を数字で示している。
アナリストコンセンサスの上振れが続く中で23%超の増益期待が固定されると、減価償却の波がいずれ損益計算書を直撃したとき、その水準との落差は大きくなる。
信用市場からの新たなシグナル
元記事では、Phinance TechnologiesのEd Dowdによる分析も取り上げている。AI投資サイクルが複数の面で同時に壁に当たりつつあるという指摘だ。
特に注目されるのがプライベートクレジット市場の動向だ。プライベートクレジット(銀行規制の外にある民間融資)は2024〜2025年に推計で50〜75%成長し、AIデータセンター建設の外部資金調達の最大50%を担う可能性をMorgan Stanleyは試算していた。そのプライベートクレジットが現在、一部ファンドが投資家の引き出しを制限するなど、成長が止まりつつあるという。
需要サイドでも変化が起きている。企業がAIツールを大規模展開した結果、コストが当初試算を超過し、ROI評価のために導入を一時縮小する動きが出ている。また、中国のDeepSeekやKimi K3がOpenAIやAnthropicに匹敵する性能をはるかに低コストで提供するオープンソース系モデルの台頭が、プロプライエタリ推論の価格を押し下げている。
信用市場ではOracleのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が急拡大し、株価も大きく下落している。Goldman Sachsのクレジットデスクも既存債権者がエクスポージャーを再評価していると指摘している。
CapEx支出そのものが信用市場の引き締まりで鈍化するなら、損益計算書上の繰延コスト問題が顕在化する前に、投資サイクル自体が失速するシナリオが現実味を帯びてくる。S&P500の時価総額の約45%はAIまたはAI関連銘柄とされており、その影響は広範に及ぶ。
何を注視すべきか
Robertsが示す検証可能な観察ポイントは3つだ。
- GPU稼働率あたりの収益に関するハイパースケーラーのガイダンス
- D&A(減価償却・償却費)のコンセンサス推計が実際の支出に追いついて上方修正されるか、依然として過小評価のまま据え置かれるか
- AlphabetのフリーキャッシュフローがDepreciation増加の中で2027年に転換するか
減価償却の波が本格化するのは2027年の決算シーズンだ。それまでの間、アナリストのD&A推計がどう動くかが先行シグナルになる。
詳細はAI Earnings Boom Hides $549B Depreciation Bill Coming Dueを参照していただきたい。