7月22日、Omar Sohailが「NVIDIA's Jensen Quells Fears Surrounding Kimi K3 And Over-Investment In LLMs, Says "Everyone's Got It Backwards, More AI Computing Power Will Be Needed"」と題した記事を公開した。中国発のAIモデル「Kimi K3」が引き起こした「AI過剰投資論」に対し、NVIDIAのJensen Huang CEOが真っ向から反論した発言を詳しく伝えている。
DeepSeekショックの再来——Kimi K3が火をつけた「過剰投資論」
今回の騒動を理解するには、今年1月に起きた「DeepSeekショック」を振り返る必要がある。中国のAI研究機関DeepSeekが、欧米の最先端モデルに匹敵するとされる高性能モデルを極めて低コストで開発・公開したことが明らかになると、「欧米Big Techによる数兆円規模のAI投資は無駄だったのでは」という懸念が一気に広がった。NVIDIAの株価は発表翌日に一時17%近く急落し、時価総額にして約6000億ドルが吹き飛んだとも報じられた。市場はAI向けGPUへの巨額投資が不要になるという最悪シナリオを一時的に織り込んだかたちだ。
そして今、同じ構図が繰り返されようとしている。引き金となったのが、Moonshot AI(中国のAIスタートアップ)が開発した「Kimi K3」だ。Kimi K3は48時間でチップ設計を完了し、毎秒8,700トークン以上を処理できるとして注目を集めている。加えて、Microsoftが自社AIアシスタント「Copilot」のバックエンドモデルをKimi K3へ切り替えることで6億ドルのコスト削減を検討していると報じられており、業界に動揺が走っている。ただし、この切り替えはあくまで「報じられている段階」であり、Microsoftが正式に発表した内容ではない点には注意が必要だ。
「低コストで高性能なモデルが登場したなら、GoogleやMeta、OpenAI、Anthropicが積み上げてきた巨額のAI投資は無駄だったのでは?」——DeepSeekショックのときと同じ問いが、再び市場を揺さぶっている。
「みんな逆に考えている」——JensenがDeepSeek論争と同じ構図を指摘
Jensenはダラスで開催されたWistronの新工場開所式(※台湾の電子機器受託製造大手Wistronが米国内に設けたAI関連製造拠点の開所イベント)に出席後、メディアの取材に答えた。
「みんな逆に考えている。DeepSeekのときもそうだった。Kimi K3は有用で非常に賢い。より多くの人が使うようになる。だからこそ、AIコンピューティングパワーがさらに必要になる。これが論理的な結論だ。」
Jensenの論旨はシンプルだ。モデルが安く・賢くなるほど、より多くのユーザーや企業が採用する。結果として、全体のコンピューティング需要はむしろ増加する——という構造である。DeepSeekが低コストで高性能モデルを出したときも同様の「過剰投資論」が浮上したが、Jensenの見立てでは、効率的なモデルの登場はAI需要の縮小ではなく拡大を意味する。
「効率化=投資不要」ではない、というロジック
Jensenの主張の核心は、AIの普及スケールが変わるという点にある。モデルが安く動くようになれば、それだけ多くのユーザーや企業が採用し、推論に必要な計算量の総量はむしろ膨らむ。これは経済学でいう「ジェボンズのパラドックス」——資源効率が上がると、かえって総消費量が増える現象——と同じ構造だ。
また彼は、OpenAI・Anthropicのようなクローズドモデルと、Moonshot AIのようなオープン寄りのモデルの両方が業界には必要だと述べており、特定の陣営を支持しない立場を明確にした。
もっとも、どちらが勝ってもGPU需要が増えるNVIDIAがこの主張をすることには、明確な利害関係がある。記事でも「どちらが勝ってもNVIDIAだけが笑って銀行へ向かう」と率直に指摘されている。Jensenの楽観論を額面通りに受け取るか、利害を踏まえた上で評価するかは読者の判断に委ねられる部分だ。
H200の中国向け出荷再開も追い風
タイミングを合わせるように、従来は中国への輸出が規制されていたNVIDIA H200 AI GPUが、中国のAI企業向けに出荷が始まったと報じられている。Kimi K3のような中国発モデルの台頭は、皮肉にも中国市場でのNVIDIAの新たな収益源となり得る。
効率的なモデルが増えようと、非効率なモデルが淘汰されようと、AIへの投資は続き、その計算基盤を握るNVIDIAの立場は揺るがない——というのがJensenの発言の背景にある構図だ。DeepSeekショックのときに株価急落という形で表れた市場の懸念は、今回も同じ問いを突きつけている。Jensenの反論がどこまで説得力を持つかは、今後のAI普及の実態が証明することになるだろう。