7月23日、The Next Webが「White House steers $5 billion toward AI research in biggest federal science overhaul in 80 years」と題した記事を公開した。米ホワイトハウスがAIを活用した科学研究加速を目的とする「Genesis Mission」に約50億ドル(約5,000億円)を投じると発表し、80年ぶりとなる連邦科学体制の大規模な見直しに着手したという内容だ。
80年ぶりの連邦科学体制の見直し
ホワイトハウスの科学顧問Michael Kratsiosは7月22日、エネルギー省主導のAI研究推進プログラム「Genesis Mission」に対し、連邦機関が約50億ドル(約5,000億円)を拠出することを発表した。5,000件超の応募から選ばれた278プロジェクトが対象で、15以上の連邦機関が研究資金、データセット、施設を提供する。エネルギー省のUnder Secretary for Science、Dario Gilによれば、同省として史上最多の応募件数を記録した。
Genesis Missionは2025年11月の大統領令によって設立されたもので、政権はアポロ計画以来最大規模の連邦科学資源の結集と位置付けている。
最大単独案件は原子炉設計を支援するAIプロジェクト
今回の投資で最大の単独案件は、6,000万ドルが投じられる原子力エネルギー分野の「Prometheusプロジェクト」だ。3年間の期間で、AIを活用して原子炉の設計・認可・製造・運用を支援することを目指す。連邦資金に加え、民間業界から2億ドル超のコストシェアと3,000万ドルの民間資本が集まっている。その他の投資対象は生物医学研究、電力グリッドの安定性、国家安全保障、量子コンピューティング、マイクロエレクトロニクス製造など多岐にわたる。
資金の流れを大学から研究者個人へ
Genesis Missionの発表と同時に、KratsiosはトランプGENESIS大統領に別途「Science: A New Golden Age」と題した報告書を提出した。この報告書はGenesis Missionの根拠文書ではなく、より広範な科学政策の方向性を示す独立した提言文書と位置付けられており、80年以上ぶりとなる米国の科学事業の包括的な見直しを求めるものだ。
注目すべきは、連邦研究資金の配分先を変える提案だ。これまで大学が中心的な受け皿となってきた構造を見直し、AIを活用した研究システムや個人研究者への直接支援へのシフトを求めている。
モデルとして挙げられているのが、NIHのDirector's Pioneer Award(NIH長官が有望と判断した研究者に詳細な実験計画書を求めず直接給付する補助金制度)だ。この仕組みでは、選ばれた研究者に年最大70万ドルを5年間給付する。政権はこの枠組みを連邦全体に拡充したい考えで、年間約2,000億ドルに上る連邦研究支出全体をこの方向性に沿って再設計する狙いがある。なお、研究予算が30億ドル以上の機関には、90日以内に実施計画の提出が義務付けられる。
報告書はさらに、商業用核融合発電と2028年までの月面への米国人帰還を国家ミッションとして明記している。
背景:米中AI競争の激化
この発表の背景には、米中AI競争の急速な接近がある。Stanfordの2026 AI Indexによれば、米国が中国の23倍の民間AI投資を行っているにもかかわらず、最高水準の米中AIモデルの性能差は3%未満にまで縮小している。
Genesis Missionは、EXIMによるAIインフラへの輸出金融支援や量子コンピューティング関連の大統領令と並ぶ、輸出規制だけに頼らない公的資金による技術覇権維持戦略の一環と位置付けられる。資金規模・体制改革・研究者個人への直接支援という三つの柱を組み合わせた今回の取り組みは、米国の科学政策における構造転換を示すものといえる。
詳細はWhite House steers $5 billion toward AI research in biggest federal science overhaul in 80 yearsを参照していただきたい。