7月20日、RuntimeWireが「Kai-Fu Lee's 01.AI seeks pre-IPO funding for a 2027 Hong Kong listing」と題した記事を公開した。李開復(カイ・フー・リー)が設立した01.AIが2027年の香港IPO(新規株式公開)に向けてプレIPO資金調達を進めている——2026年1〜5月だけで受注額が15億人民元超に達したとされる一方、ビジネスモデル自体が「大規模言語モデルの開発競争」から「エンタープライズ向け実装ビジネス」へと根本的に転換しており、その構造的な収益性がIPOの最大の焦点となっている。
「中国版OpenAI」からエンタープライズAIへの転換
01.AIはもともと、OpenAIに対抗する中国発の大規模言語モデル企業として2023年に設立された。同年11月に李開復は「OpenAIやGoogleが中国市場に製品を提供していないため、国産LLMが必要だ」と主張し、バイリンガルモデル「Yi-34B」(GitHub)をリリース。シノベーション・ベンチャーズ(李開復自身のVCファンド)やAlibaba Cloudからの出資を受け、報道では評価額10億ドルに達したとされている。
しかし現在、01.AIのIPOに向けた事業モデルは大きく変わっている。最大の汎用モデルを競うレースではなく、エンタープライズ向けの導入・実装ビジネスに軸足を移した。公式サイトはコンサルティング、プライベートデプロイ、業界特化モデル、そして顧客の現場に常駐する「フォワードデプロイドエンジニア(Forward Deployed Engineer)」を前面に打ち出している。
このアプローチはPalantirのサービス重視モデルと構造的に近い——顧客のデータ、ワークフロー、意思決定構造に深く入り込んでソフトウェアを作り込む形式だ。ただし、Palantirが政府・防衛分野を主軸に置くのに対し、01.AIは民間企業のビジネス意思決定を対象としており、ターゲット市場と製品の性格は異なる点に注意が必要だ。
具体的なプロダクト:TrueNorthと3つのAI
01.AIは意思決定プラットフォーム「TrueNorth」とともに、以下の3製品を展開している。
- Boss AI:経営幹部向けに業務リスクの可視化とコミットメント管理を支援
- Investor AI:投資資料・財務データ・デューデリジェンス記録の分析
- TopSales AI:CRM、商談、契約、納品データ、顧客とのコミュニケーションを統合し、営業リスクの特定と次のアクションを提案
ただし、李開復自身がTrueNorthのローンチ後のメディア対談で明言しているとおり、「これらのプロダクトはすぐに使えるわけではなく、フォワードデプロイドエンジニアのサポートが必要であり、中小企業には現時点では価格的に合わない」。実装には顧客のデータ接続、ビジネスオントロジー(業務概念の定義体系)の構築、プロトタイプ検証まで相当の工数がかかる。このことは後述する受注・売上の乖離と直接つながっている。
受注と売上高の乖離が最大の論点
財務面では、李開復が36Krとのインタビューで公開した数字が注目される。
- 2025年の受注額:5億人民元
- 2025年の監査済み売上高:2億5000万人民元
- 2026年1〜5月の受注額:15億人民元超
ただし、これらは公開財務諸表ではなく、社内の周年記念書簡に基づく数字であり、独立検証はされていない。
受注と売上計上の乖離が生じているのは、契約が分割請求で、売上認識まで1〜3年かかるためだ。受注はあくまで「将来の仕事の契約」であり、即座に計上できる収益ではない。エンタープライズ実装型ビジネスは急速な受注増を示せる一方、エンジニアリング・営業・回収コストを数年にわたり抱え込む構造でもある。
李開復はIPO前に「黒字の四半期を1回達成することを目標にしている」と述べており、初めての年次決算の公開が、IPO審査における粗利率・営業費用・キャッシュフローの透明性を高める機会になるとみられる。
李開復のネットワークに依存する販売体制
01.AIのエンタープライズ戦略は、李開復個人の人脈に強く依存している。彼は36Krに対し「世界2000〜3000社の大企業をターゲットとし、そのうち500〜600社に接触済み」と語り、2週間前に約200名のCEOを前に講演し、そのうち30名と個別面談したと述べている。
この依存関係はスケーラビリティの問題でもある。01.AIのパイプラインがどこまで「李開復本人との面談」に依存しているか、という点だ。李開復はこの点に自覚的で、「トップ経営者が関与する案件のうち、チームが自力で受注する割合が増えてきた」と述べ、自身の役割を「初期接触・一部受注・関係維持」と位置づけ、その能力をチームとプロダクトに埋め込んでいると説明している。
2027年という期限
プレIPOラウンドの条件(リード投資家・調達額・評価額)はいずれも未公表であり、2023年時点の10億ドルという評価額も現在には当てはまらない。2027年の上場計画は、エンタープライズAIへのピボットで積み上げた受注残と現場実装能力を、持続的な収益と採算性に転換できるかを公開市場に問う期限でもある。
詳細はKai-Fu Lee's 01.AI seeks pre-IPO funding for a 2027 Hong Kong listingを参照していただきたい。