7月21日、Inside AI Newsが「Bristol Myers Squibb Buys Nvidia's Latest AI Supercomputer for Drug Research」と題した記事を公開した。製薬大手Bristol Myers Squibb(BMS)がNvidiaの最新アーキテクチャ「Vera Rubin」搭載DGX SuperPODを創薬研究向けに購入したことを報じている。同社チーフリサーチオフィサーは「このツールなしでは発見されていなかった」とAI主導の鎌状赤血球症治療候補について語っており、AIを「補助ツール」ではなく「発見の主体」と公式に認める発言として業界内で注目を集めている。
「AI無しでは発見できなかった」——鎌状赤血球症の治療候補
記事で特に目を引くのが、BMSがAI主導で発見したと明言している早期臨床段階の鎌状赤血球症(sickle cell disease)治療候補の存在だ。チーフリサーチオフィサーのRobert Plenge氏は「このツールなしでは、その候補はおそらく発見されていなかった」と語っている。製薬企業がAIを補助ではなく発見の主体として公式に認める発言は珍しく、今回の投資がいわゆる「効率化」の文脈を超えていることを示す象徴的なエピソードだ。
創薬候補を「10件」から「数十件」へ——計算力が研究のボトルネックを破る
Plenge氏は、この投資の意味をひとつの数字で説明した。「以前は10件程度だったものが、今では数十件の創薬候補を開発初期段階で評価できる」——分子相互作用シミュレーションのスループットが桁違いに向上するということだ。
これは単なるスピードアップではなく、「何を試せるか」という探索空間そのものが広がることを意味する。創薬研究では早期フィルタリングの精度が最終的な成功率を左右するため、この規模の拡大は開発戦略全体に影響を及ぼす。
Plenge氏はさらに、元記事の記述によれば、AIツールによって臨床試験用医薬品の製造期間がすでに20〜30%短縮されており、今後数年で**50%**に達すると予測している。従来の創薬は10年単位のタイムラインが常識だったが、これが実現すればR&Dコストの削減幅も兆円単位になる。
なぜ今、Vera Rubinなのか
BMSはすでに旧世代のSuperPODを運用しており、今回はそれより「2〜3世代新しい」Vera Rubin搭載システムへの大幅アップグレードとなる。
チーフデジタル&テクノロジーオフィサーのGreg Meyers氏は、電力効率を選定理由のひとつに挙げた。「1ワットあたり10倍の計算性能」という優位性は、電力コスト削減と持続可能性の両面で意思決定を後押ししたという。「電気代は安くなっていない」という率直な発言が、大規模AI運用の現実を示している。
Vera Rubinは、Nvidiaが今年発表した現行AIコンピューティングプラットフォームの後継アーキテクチャで、新設計のテンソルコアと高速インターコネクトを備える。なお、元記事では単体SuperPODの具体的なFLOPS値は明示されておらず、Nvidia自身もスペックを公式確認していない。
BMSは現在、全ての低分子プログラムおよびほとんどの高分子プログラムにAIを適用しており、モデルの大規模化とデータセット拡大に伴い旧来のインフラがボトルネックになっていたという背景もある。
製薬×AI——業界全体の動向
Roche、AstraZeneca、ModernaといったメガファーマもNvidiaとのパートナーシップ締結や社内AIクラスター構築を進めており、共通の目標は「創薬ターゲットの特定速度向上」と「臨床試験の**成功率10%**という業界の課題克服」だ。
NvidiaはハードウェアだけでなくBioNeMo(創薬向け生成AIプラットフォーム)などのソフトウェアフレームワークも提供しており、BMSはこれらを組み合わせて活用しているとみられる。
ただし、懐疑的な声もある。記事内では「AIで発見された薬が後期臨床試験において従来手法開発品を一貫して上回ったケースはまだない」という指摘が明示されており、計算性能の向上が直ちに創薬成功率の改善につながるかは未証明だ。データ品質、アルゴリズムの革新、ウェットラボのワークフローとの統合も引き続き重要な課題として残る。
今回のBMSの一手は、ライフサイエンス企業として初めてVera Rubin搭載SuperPODを導入するというタイミングの早さにおいても業界内で目立つ。競合他社が同様のアップグレードを先送りすれば、ジェネレーティブケミストリーやタンパク質折り畳み予測における差は拡大する可能性がある。
詳細はBristol Myers Squibb Buys Nvidia's Latest AI Supercomputer for Drug Researchを参照していただきたい。