7月19日、Nick Heer(Pixel Envy)が「Breach of A.I. Music Generator Suno Reveals Scraping of Music From Deezer and YouTube – Pixel Envy」と題した記事を公開した。AIによる楽曲生成サービス「Suno」がデータ侵害被害を受け、その過程でYouTube MusicやDeezerなど複数のプラットフォームから無断で楽曲をスクレイピングしていた事実が明らかになった経緯を取り上げている。
ハッカーが暴いたSunoの学習データ
AIによる楽曲生成サービス「Suno」が、数百万曲の楽曲と歌詞を無断でスクレイピングしていたことが、同社へのデータ侵害を通じて明らかになった。報道したのは404 Mediaで、ハッカーがSunoのシステムに侵入し、学習データに関する情報を外部に共有したという。
ハッカーが提供した情報によれば、Sunoがスクレイピングしていたソースは以下の通りだ。
- YouTube Music
- Deezer
- Genius(歌詞サイト)
- Pond5、Jamendo、Freesound(ストック音楽ライブラリ)
- International Music Score Library Project(楽譜ライブラリ)
- RSSフィード経由のポッドキャスト
Sunoは音楽生成AIとして急速に普及しているサービスで、テキストプロンプトから楽曲を生成できる。その品質の高さは、大量の著作権保護コンテンツを学習データとして取り込んでいた可能性を以前から指摘されていたが、今回の侵害によってその実態が具体的に浮かび上がった形だ。
被害はユーザーデータにも及ぶ
今回の侵害は、学習データの暴露にとどまらない。ハッカーは数十万人規模のSunoユーザー情報に加え、Stripe(決済サービス)の支払い情報にもアクセスできたと述べている。Stripeは多くのSaaSサービスが採用するクレジットカード決済基盤であり、アクセスされた情報の具体的な範囲(カード番号の末尾4桁・メールアドレス・請求先情報など)は現時点では明確に開示されていないが、決済関連情報が含まれうる点でユーザーにとって深刻なプライバシーリスクが生じている。Sunoを有料プランで利用しているユーザーは特に注意が必要だ。
「変容的利用」の主張と法的矛盾
Sunoは現在、複数の訴訟を抱えている。UMG(ユニバーサル ミュージック グループ)が提起した訴訟を含む複数の著作権侵害訴訟に対し、Sunoは自社の利用が「変容的利用(transformative use)」に当たると主張している。
変容的利用とは、米国著作権法のフェアユース(fair use)の判断基準のひとつで、元の著作物を新たな目的や表現のために使用する場合に著作権侵害に当たらないとされる考え方だ。AI学習への適用については現在も法的な議論が続いている。
Heerはこの主張に対して鋭い指摘を加えている。過去には、数百曲から数千曲をダウンロードしただけで刑事訴追された事例がある。Tenenbaum事件(2009年)では30曲、Gonzalez事件では1,370曲のダウンロードが問題になった。
それに対しSunoは数百万曲規模でスクレイピングを行っている。Heerはこの状況を皮肉を込めてこう論じている。
この議論の論理が示唆するのは、ある天文学的な数のダウンロードを超えれば、1曲あたりの影響が微小になるがゆえに完全に合法になる、ということだ。
スケールが大きすぎるから違法性が薄れる、という逆説的な構図を突いた批判だ。
AI著作権問題における重要な事例
SunoやStability AI、OpenAIなど、多くのAI企業が著作権コンテンツの無断学習を巡る訴訟に直面している。しかし今回の件は、ハッカーによるSunoへの侵害被害を通じて学習データの出所が具体的に特定されたという点で異例だ。通常、AI企業は学習データの詳細を開示しないため、第三者による検証が困難だった。
この事例は、AI学習データの透明性と著作権保護の問題が、訴訟だけでなく情報漏洩という形でも表面化しうることを示している。
詳細はBreach of A.I. Music Generator Suno Reveals Scraping of Music From Deezer and YouTube – Pixel Envyを参照していただきたい。