7月18日、PYMNTSが「AI Is Coming for Your Job Title」と題した記事を公開した。AIが雇用そのものより先に「職種名」を侵食しつつある現象を詳細に分析した内容で、急増するAI肩書きの実態と、本物の新職種をどう見極めるかという問いに正面から向き合っている。
AIに仕事を奪われるかどうか、その議論はまだ決着がついていない。だが、AIはすでに人事部に侵入し、組織図を書き換えた。
LinkedInでは「Forward-Deployed Agentic AI Architect」のような職種名が当たり前のように並ぶ。実態はチャットボットの文脈管理かもしれないが、名刺はすでに刷られている。タイトルだけ見れば最先端のAI専門家だが、その中身が本物かどうかを見極める目線が、採用側にも求職者側にも今まさに問われている。
数字で見るAI職種の膨張
Indeed Hiring Labによると、AIに言及する求人数は2020年2月比で134%増(2025年末時点)。一方、求人全体の増加率はわずか**6%だ。2025年12月には、Indeed掲載求人の4.2%**がAIに触れており、過去最高を記録した。
さらに直近の分析(Business Insider経由)では、AIを明示した求職タイトルの数が2022年の264種から2026年第1四半期には822種へと急増。そのうち3分の2近くは従来のテクノロジー職以外の領域だ。AIマーケティングマネージャー、AI学習スペシャリスト、Responsible AI顧問、AI変革リードといった肩書きが登場しているが、これらは必ずしも新しい職種ではない。多くは「履歴書に強いキーワードを発見した、既存の仕事」である。
業種別に見ると、**データ・分析系求人の約45%、マーケティング系の約15%、人事系の約9%**にAI関連の語句が含まれている。
最注目の肩書き:AI EngineerとForward-Deployed Engineer
LinkedInの2026年急成長職種ランキングで1位に輝いたのがAI Engineerだ。LLM(大規模言語モデル)アプリの構築、企業データとAIシステムの接続、モデルのパフォーマンス改善など、役割の幅が極めて広いため人気が高い。その「あいまいさ」が強みでもある。
もう一つ急浮上しているのがForward-Deployed Engineer(FDE)だ。元はPalantirが用いていた職種名で、顧客に常駐して「AIで何かしたい」という経営層の要望を動くソフトウェアに落とし込む役割を指す。The Next Webによれば、この職種の求人数は2025年1月から2026年1月の1年間で約19倍に膨らんだ。
報酬も別格だ。CTOや技術幹部向けの情報発信メディア「Signal Through the Noise」が公開したCTOガイドによると、FDEの年収レンジは23万8,000〜70万ドル、リサーチエンジニアは最大140万ドル、最高AI責任者(Chief AI Officer)は場合によっては100万ドル超に達する。シラキュース大学の調査でも、Chief AI Officerの報酬は20万〜50万ドル以上とされている。
実質のある新職種と、そうでないもの
AIが生み出した「本物の新職種」も存在する。これらに共通するのは、AIモデルそのものの品質・安全性・信頼性に直接責任を持つという点だ。
- Evals Engineer:モデルが信頼性ある動作をするかテストを設計する。LLMの出力評価(Evaluation)は再現性が低く、専門的な設計知識が必要なため、エンジニアリング職として独立しつつある
- AI Red Teamer:顧客より先にシステムを意図的に壊して脆弱性を発見する。セキュリティ分野の「レッドチーム演習」をAIモデルに適用した職種で、プロンプトインジェクションや有害出力の誘発テストなどを担う
- Model Behavior Engineer:AIがなぜそう応答するかを分析する。モデルの内部動作を解釈し、意図しない挙動の原因を特定するXAI(説明可能なAI)領域に近い役割だ
- AI Governance Leader:データ・バイアス・セキュリティ・規制リスクを管理する。EUのAI規制(EU AI Act)など各国の法整備が進むなかで、コンプライアンス対応の要として需要が急拡大している
一方、名前だけが先走っているケースも多い。
Claude Evangelist(Anthropicが募集)は、プロダクト教育と使徒的布教を兼ねるような役割だ。Vibe CoderはAIへの指示で開発を進める人を指し、「Vibe Engineer」はその少しだけ格式ある版である。Context Engineerはモデルに与えるデータ・指示・メモリ・ツールを設計する実質的なスキルだが、Prompt Engineerはすでに「AIロール内の一スキル」に格下げされつつある。
Signal Through the NoiseのCTOガイドは、どれだけ職種名が増えようと、実態は3つの機能に集約されると指摘する。AIプロダクトを作る・モデルを訓練する・インフラが燃えないようにする、以上だ。裏を返せば、この3軸のどこに自分のスキルが紐づくかを説明できない肩書きは、本物とは言いがたい。
AIは本当に新しい仕事を生んでいるか
世界経済フォーラムが引用したLinkedInのデータによれば、AI投資はAIエンジニアやデータアノテーター等を含む130万ポジションを支え、さらにAI関連データセンター向けに60万件超の雇用を下支えしている。サーバーラックはチャットボットと違い、今でも電気工事士を必要とする。
AIは一部のタスクを自動化し、別のタスクを生み出し、企業に分業の再考を迫る。だが記事の結論は辛辣だ。「そのすべてが落ち着く前に、企業はステアリングコミッティを作り、Chief Agentic Transformation Evangelistを任命し、その人物が何をするかを決める会議を設定するだろう」。
※編集部の考察:日本企業においても、「AI推進室」や「AI活用担当」といった肩書きが急速に広まりつつある。ただし、その役割定義や期待スキルセットが明確でないまま採用・配置が進むケースは少なくない。本記事が示す「3つの機能への集約」という視点は、国内の採用担当者や求職者にとっても自社のAI職種設計を点検する実用的な軸になりうる。
詳細はAI Is Coming for Your Job Titleを参照していただきたい。