7月18日、The Next Webが「Google used Veo and Gemini to reconstruct the greatest goal Pelé ever scored, which was never filmed」と題した記事を公開した。Google DeepMindがVeo 3・Geminiを組み合わせ、映像記録が存在しないペレーの「幻のゴール」をAIで再現したプロジェクトについて詳しく紹介されている。映像として存在しなかった現実の出来事を「復元」するというAIの使い方は、今年のAI映像生成をめぐる議論の中でも異質な事例だ。
67年間、記憶の中にしか存在しなかったゴール
1959年8月2日、ペレーは自身のキャリア最高のゴールと語るプレーを披露した。守備選手を3人連続でかわすソンブレロ(股抜き)、キーパーへの膝フリック、そして頭で決めたゴール――ボールが一度も地面に触れないまま完結したこのプレーは、映像が一切残っていない。「Gol da Rua Javari(ルア・ジャヴァリのゴール)」と呼ばれ、67年間にわたって現場にいたファンの記憶の中だけに存在してきた。
Google DeepMindはこの「幻のゴール」を、AIを使って映像として再現した。
再現のプロセス:約2,000件の記録と目撃者証言から
このプロジェクトはペレーの家族およびPelé Brandとの共同制作で、歴史家のアニタ・ルッケージがスタジアムの設計図から家族のアルバムまで約2,000件の歴史的記録を収集し、当時を知る存命の目撃者へのインタビューも実施した。
撮影は当時の本物のスタジアム「ルア・ジャヴァリ」で行われ、時代考証に基づいた革製のボールとユニフォームを使用。ここで収録したライブアクション映像をAIモデルに入力する形で処理が進んだ。
元記事によると、使用したモデルとその役割は以下の通りだ:
- Veo 3:映像生成の中核を担当
- Gemini:映像の文脈理解と生成を補完
AIが担ったのは主に3点だ。スタント俳優をペレーの外見に差し替えること、現代のスタジアムを1959年当時の建築・天候に合わせて変換すること、そして時代に即した群衆シーンの生成である。
最終的な映像はフィルムアウトマシンを通して1950年代の映画フィルムの質感を再現した後、ボールの合成やカラーグレーディングといった従来のVFX処理でも仕上げられた。
ペレーの娘のコメントと現在の公開状況
ペレーの娘であるフラーヴィア・クルツは次のように語っている。
「父はきっとこれを見てとても誇りに思うでしょう。ゴールが記録されなかったことを、父はいつも残念がっていました」
再現映像は現在、ブラジルのサントスにあるペレー博物館で展示されている。
「生成」ではなく「復元」という使い方
今年のAI映像生成の多くは、インターネット上に合成コンテンツを大量に流通させる用途に使われてきた。この事例はその逆を行く。証拠の断片から失われた現実の出来事を再構築するという使い方だ。
「何もないところから生成する」のではなく、「約2,000件の歴史的記録と目撃者証言という断片的な証拠から実際の出来事を再構築する」というアプローチで、AIモデルの能力を活用している。文化財のデジタル保存やスポーツ史の復元に対してAIが果たせる役割を、具体的な形で示したプロジェクトだと言える。
詳細はGoogle used Veo and Gemini to reconstruct the greatest goal Pelé ever scored, which was never filmedを参照していただきたい。