7月18日、SF Standardが「AI's new political donor class is already outspending Big Tech's last one」と題した記事を公開した。AnthropicとOpenAIの従業員は、まだIPOすら迎えていない段階で、GoogleやFacebook世代のBig Tech従業員を1,000人あたりの連邦献金参加率で5〜6倍上回る政治献金勢力を形成しつつある。AI規制の行方が立法者の理解度に左右されるという危機感が、この異例の動きを後押ししている。
IPO前から動き出したAIマネー
AnthropicもOpenAIも、まだ株式を公開市場で売買できる段階にない。それでも、両社の従業員はすでに選挙政治に大きな存在感を示している。
最初のシグナルは2025年秋に現れた。AnthropicとOpenAIの従業員計28人が、AI安全性法案を支持するニューヨーク州第12選挙区の連邦議会候補者Alex Boresに、1日で合計17万3,000ドルを献金した。そのうち24人は上限額の7,000ドルを満額拠出している。2日後には同じドナーの一部に加え、カリフォルニア州上院議員Scott Wiener(Nancy Pelosiの議席を狙う)への献金も相次いだ。
2026年春には州知事選にも資金が流入した。カリフォルニア州知事予備選の最終2週間で、13人のAnthropicとOpenAI従業員がXavier Becerraに合計50万ドル超を献金。同時期にAnthropicの数人がRob Bonta現職司法長官にも満額拠出した。
過去のBig Tech IPO世代との比較
SF Standardの分析では、AnthropicとOpenAIの連邦献金を、Google(2005〜06年)、Facebook(2013〜14年)、Airbnb(2021〜22年)それぞれのIPO後初の中間選挙サイクルと比較している。
参加率:Anthropicは別格
1,000人あたりの連邦選挙献金者数で見ると、Anthropicは約59人。Airbnbのほぼ3倍、FacebookやGoogleの5〜6倍に達する。OpenAIの参加率はAnthropicより低いが、それでも過去3社を上回る。
Facebookで初代ワシントンDCスタッフを務めたAdam Connerは、当時をこう振り返る。
「当時、リーダーシップ層にも一般従業員にも、政治への関心はほとんどなかった。テクノロジーは今のAIのように、政治的に重要な争点ではなかった。」
Anthropicのこの高参加率には背景がある。同社の初期従業員の多くが**効果的利他主義(EA: Effective Altruism)**のコミュニティ出身であり、個人資産の一定割合を社会に還元する規範が根付いているという。EAは功利主義的な思想に基づき、最も効果的な方法で社会的善を最大化しようとする運動で、シリコンバレーのAI研究者層に広く浸透している。
金額:インフレ調整後でも3倍超
献金額でも差は歴然だ。Anthropicの献金者の**39%**が少なくとも1候補に上限額を拠出しており、Airbnbの同時期と比べて2倍以上。39人が2候補以上に、12人以上が5候補以上に満額拠出している。
インフレ調整後の比較で、Anthropic従業員の献金総額は過去のBig Tech各社の3倍超。OpenAIについても、同社のGreg Brockman社長による巨額献金——反規制系スーパーPACのLeading the FutureとMAGA Inc.へ、合計2,500万ドル——を除外しても、Google・Airbnbを上回る。
なお、元記事ではLeading the FutureとMAGA Incへの献金は別々の献金先として計上されており、合計2,500万ドルとされている。BrockmanのLeading the Futureへの献金は社内で反発を招いており、OpenAI従業員が対抗するAI安全性スーパーPACに21万5,000ドル超を献金したことが報告されている。
組織的な動き:LessWrongが触媒に
過去のBig Tech各社では、1日に同じ候補者へ献金した同社従業員が5人を超えた事例はなかった。対してAnthropicは、Boresへの献金で20人が同日に動いた。
その触媒と見られるのが、AIリサーチャーや効果的利他主義者が集う合理主義系フォーラムLessWrongへの投稿だ。LessWrongはEliezer Yudkowskyらによって形成された合理主義コミュニティを母体とし、AI安全性の議論が活発に行われている場として知られる。Scott Wienerへの献金を呼びかけた投稿では、「AI安全性への関心を候補者に伝えるため、キャンペーンサイトではなく特定のActBlueリンクを使うよう」と具体的な手順まで案内されていた。
ある民主党シニアストラテジストはこの動きをこう評価する。
「できるだけ早い段階で献金して関係を築くのは、実に賢い戦略だ。議会の平均年齢を考えれば、AI法案を書く人々はAIを理解していない。関係を確立すれば、立法者を教育する機会になる。」
サンフランシスコへの集中
連邦選挙への献金者のうち、Anthropic従業員の**59%、OpenAI従業員の42%**がサンフランシスコ在住。Airbnb(34%)、Google(18%)、Facebook(14%)を大きく上回る。
市議会選挙への寄付上限は現在500ドルだが、独立支出委員会(スーパーPAC相当)への献金は無制限だ。2024年市長選では記録的な2,800万ドルが費やされており、AIドナー層がローカル政治でどこまで影響力を持つかが今後の焦点となる。現時点ではDistrict 2・4の特別選挙や、District 8のManny Yekutiel候補への献金が確認されており、YIMBY(住宅供給推進)路線の穏健派との親和性が見える。
IPOはまだ来ていない
AnthropicとOpenAIのIPOが実現すれば、従業員が株式を現金化できるようになり、政治資金の規模はさらに拡大する余地がある。7月31日の選挙資金報告期限で、その輪郭がより鮮明になるはずだ。
詳細はAI's new political donor class is already outspending Big Tech's last oneを参照していただきたい。