7月18日、The Next Webが「A French startup built a radiology viewer from scratch with AI at its core. Moffitt Cancer Center is already using it.」と題した記事を公開した。フランス発のAIスタートアップRaidiumが、AIをコアに据えた放射線科向けビューワを米国の著名ながん研究機関Moffitt Cancer Centerに導入したという事例だ。放射線科における「AIの後付け」という業界慣習に正面から挑む試みであり、その設計思想と技術的な実装の詳細が報告されている。
「ビューワにAIを足す」のではなく「AIからビューワを作る」
放射線科向けの医用画像管理システム(PACS)は、20年以上にわたってほぼ同じ設計のまま使われてきた。Raidiumが挑んだのは、その構造ごと作り直すことだ。
従来のアプローチは、既存のPACSビューワの上にAIツールを後付けで載せるものだった。Raidiumは逆の発想をとった。自社の基盤モデル「Curia」を中心に据え、そこからビューワ「Raidium Read」をゼロから構築した。
CuriaはCT・MRIの2億枚以上のスライス(15万件の検査データ)で学習した独自モデルだ。このモデルが担う主要タスクは、**RECISTと呼ばれる腫瘍評価の標準化指標**に基づいた病変の自動測定である。RECISTとは、がん治療における腫瘍の縮小・進行を定量化するための国際標準プロトコルで、臨床試験では必須の指標だ。
Raidiumによると、Curiaの導入によって読影者間のばらつきが3分の1に低減される。特定の臓器に限らず全身の病変を横断的に検出・セグメント化し、過去の検査データと新しい画像を自動で突き合わせる。
手作業によるレジオン追跡という「地味で重大な」問題
Raidiumが解こうとしている課題は、放射線科の日常業務の中核にある。
腫瘍科の放射線科医は、連続する複数のスキャンにわたって病変を手動で追跡する作業を行っている。過去の検査から計測値を引き出し、新しい画像と比較する。このワークフローは時間がかかるだけでなく、読影者によって結果がばらつきやすい。
Raidium Readはこの一連の作業を自動化する。大量の画像を入力として受け取り、解剖学的部位をまたいで病変を検出・セグメント化し、過去の病変データを新しい追跡スキャンと照合して提示する。
MoffittのラジオロジストであるCesar Lam医師は、このプラットフォームによって「少し前まで不可能に思えた研究プロジェクトが実現できる」とコメントしている。また、CEO兼共同創業者のPaul Herent氏は「20年間、標準的なPACSビューワは進化を拒んできた」と述べている。
バックエンド統合不要で即時展開が可能な理由
技術的な観点で実用的な点が一つある。Raidium Readはバックエンド統合が不要で、従来のPACSシステムの導入と比べて展開が大幅に速い。
これが可能なのは、Raidium ReadがDICOM形式の医用画像をクラウド経由で直接読み込む設計をとっているためだ。既存のPACSサーバーや院内インフラとの深い連携を必要とせず、ブラウザや専用クライアントから即座に利用を開始できる。大規模な病院システムにAIを持ち込む際の最大の摩擦である「インフラ統合の工数」を回避できることを意味する。
研究用途に限られる背景——FDA規制の壁
現在Moffitt Cancer Centerでの提供は臨床試験・研究用途に限られており、一般的な診断業務への適用には至っていない。これは技術的な制約ではなく、規制上の要件による。
米国で医療AIを実際の診断ワークフローに組み込むには、FDA 510(k)申請による承認が必要だ。510(k)は「実質的同等性」を証明する審査プロセスであり、既存の承認済み製品と同等の安全性・有効性を持つことを示す必要がある。AIを核に据えた新設計のビューワにとって、この審査は単純ではない。Raidiumは2026年末までの510(k)取得を見込んでいる。米国展開はMoffittを起点に、シリコンバレーとパリの両拠点を活かして進める計画だ。
業界の動向——「設計思想の転換」を迫るAI
Raidiumのアプローチは、医療AIの業界全体で起きつつある設計思想の転換を体現している。
医療コーディングAIのCorti Symphonyは、エラーが起きやすい臨床タスクをラベリング問題ではなく推論問題として捉え直した事例として注目される。診断精度の面でも、AIが希少がんの評価において生検を上回る精度を示した研究が報告されているが、こうした成果の多くはまだ研究プロトタイプ段階にとどまっている。Raidiumが目指すのは、この段階を超えて日常の臨床ワークフローに定着させることだ。
Raidiumの賭けは明確だ。AIを既存ツールの上に「後付け」するのではなく、AIを核としてシステム全体を設計することが、放射線科AIを日常の臨床ワークフローに定着させる唯一の道だという考え方だ。
詳細はA French startup built a radiology viewer from scratch with AI at its core. Moffitt Cancer Center is already using it.を参照していただきたい。