7月18日、SiliconAngleが「AMD's next reinvention: A new playbook for the AI era」と題した記事を公開した。この記事では、AMDがAI時代に向けてNVIDIAに対抗するための新たなプラットフォーム戦略を打ち出している経緯と論理について詳しく紹介されている。
「Intelに勝ったやり方」はNVIDIAには通用しない
AMDの過去10年間の復活劇は、x86 CPU市場でIntelからシェアを奪うというシンプルな戦略で成立していた。Zenアーキテクチャの再設計、チップレット(※複数の小さなダイを組み合わせてプロセッサを構成する手法)の採用、TSMCの製造力の活用、そしてLisa Su CEOによる四半期ごとの約束の履行。この「Say:Do」の積み重ねが、x86データセンター市場で約55%の売上シェアを獲得するまでの信頼を築いた。
だが記事は、その成功モデルをそのままAI時代に持ち込もうとするのは誤りだと主張する。
理由は競争の軸が根本的に変わったからだ。IntelとのCPU戦争では、プロセス技術・コア数・電力効率・価格性能比といった「コンポーネント単体」の優劣が勝敗を決した。しかしAI時代において勝敗を分けるのは、シリコン・ソフトウェア・ネットワーキング・開発者エコシステムを一体化した「完結したプラットフォーム」だ。
NVIDIAの優位性はGPUの性能だけではない。CUDA(約20年かけて育成した開発者エコシステム)、MellanoxとNV-LinkおよびSpectrum-Xによるネットワーキング、ラックスケールのシステムインテグレーション——これらが積み重なった堀の深さが問題だ。
AMDの目標は「No.1」ではなく「不可欠な第2プラットフォーム」
記事が強調する核心はここにある。AMDの目標はNVIDIAを倒すことではない。
「目標はNo.1になることではない。供給が需要を大幅に上回り続けるこの市場において、不可欠な代替選択肢になることだ」
テック史上最大規模のAIインフラ市場において、NVIDIAが当面トップであり続けるという前提を受け入れた上で、AMDは「誰もが必要とする第2の選択肢」として自らを位置づけようとしている。
この戦略を支える構造は3層に整理されている。
①コアを構築する(Build the core)
EPYC CPU、Instinctアクセラレーター(AMD製AI向けGPU)、ROCm(NVIDIAのCUDAに相当するオープンソースのAI向けソフトウェアスタック)の有機的開発を継続する。
②ボトルネックを買収する(Buy the gaps)
AMDは直近の主要買収として以下を挙げている:
- Xilinx(約490億ドル):FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ、用途に応じて回路を書き換えられる半導体)によるアダプティブコンピューティング
- Pensando:DPU(データ処理ユニット)とネットワーキング技術
- **ZT Systems**:ラックスケールのシステムインテグレーション能力(2024年に約49億ドルで買収発表)
記事はこれらを「隣接事業の買収ではなく、自社のボトルネックの買収だ」と評価する。有機的に開発すれば数年かかる部分を、時間を買う形で手に入れている。
③エコシステムに種を蒔く(Seed the ecosystem)
OEMやハイパースケーラー、Neocloud(新興クラウド事業者)との連携を促進するためのオープンスタンダードへの投資、ROCmと開発者ツールの普及促進がここに含まれる。
x86の先にある「AIファクトリー」への橋渡し
記事はAMDが持つもう一つの強みにも言及している。x86データセンターで強固な地位を持ち、AI分野でもIntelより先行しているという事実だ。これにより、AMDは「x86からAIファクトリー(AI処理に特化したデータセンター基盤)への移行期の橋渡し役」を担える立場にある。
長期的には、現在x86汎用システム上に構築されているソフトウェアスタックの多くが、AI基盤(CUDAやROCm等)向けに再設計されると記事は予測する。その転換が起きれば、x86ユニット数の減少にもかかわらず、AMDはAIインフラ上で収益を上げる機会を得る。
なお変数として、NVIDIAがIntelへの50億ドル投資の一環として締結した、AI向け最適化デュアルチップアーキテクチャに関する提携が挙げられている。これはNVIDIAがGPU単体の枠を超え、x86 CPUとの深い統合を進める動きであり、AMDが橋渡し役として立つ市場に直接競合してくる可能性がある点で、AMDにとって注視すべき動向だ。
実行力の証明が次の問われどころ
AMDがこの戦略を実現できるかどうかは、結局のところ実行力にかかっている。Lisa Suが「言ったことを必ずやる」文化でIntelとの戦いに勝ったように、今度はCUDA対抗のROCmエコシステムを数年で育てられるかどうかが試される。約20年分の生態系を「数年で圧縮する」という命題は、宣言としては明快だが、その実現難易度は低くない。
ROCmはすでにオープンソースとして公開されており、PyTorchやTensorFlowとの互換性整備も進んでいる。またZT Systemsの買収によってラックレベルのシステム出荷能力を手に入れたことで、「チップを売る会社」から「AIインフラを丸ごと提供する会社」への転換に向けた布石は打ち始めている。ただし、開発者がROCmをCUDAの代替として日常的に選ぶようになるまでの道のりは、製品の優劣だけでなく、コミュニティの厚みやツールチェーンの成熟度に左右される。実行の量と質、両面での継続的な証明が求められる局面だ。
詳細はAMD's next reinvention: A new playbook for the AI eraを参照していただきたい。