7月18日、ludic.mataroa.blogが「AI Mania Is Eviscerating Global Decision-Making」と題した記事を公開した。筆者は、Fortune 500企業の幹部から現場のエンジニアまで300回以上の対話を重ねてきたエンジニア兼コンサルタントで、「自分が関与・観測したAIプロジェクトの直近1年半の成功率が0%だ」という告発を行っている。
世界のAI投資額は2025年に過去最大を記録し、2026年に入ってもその勢いは衰えていない。一方で現場では、ROIを問う声や「PoC止まり」への不満が蓄積し続けている。本記事はその実態を最も率直に記録した証言のひとつとして、公開直後から技術者コミュニティで広く共有されている。
AIプロジェクトの成功率:筆者の観測では0%
筆者が断言するのは、直近1年半で関与・観測したAIプロジェクトの成功率が0%だという点だ。自社が参加したものだけでなく、傍ら偶然目にしたプロジェクトも含めて、ひとつも成功していない。
失敗の構造は単純だ。そもそも多くの企業はソフトウェアプロジェクトを満足に遂行できない。通常のプロジェクトが抱える失敗要因はすべてAIプロジェクトにも当てはまり、加えて「すべてうまくいっても技術の新規性ゆえに失敗する」リスクが上乗せされる。そのリスクを許容できるほどソフトウェア開発が得意な企業はほとんど存在しない、と筆者は述べる。
最も普及しているユースケースである「社内向けチャットボット」と「顧客向けチャットボット」も例外ではない。社内向けは、企業のドキュメント品質が低いためLLMは書かれていないことを知ることができず、実際に社員が使うケースはほぼない。顧客向けについては、筆者自身がMitsubishiの音声ボットに問い合わせたところ6ヶ月経っても折り返しがなかったという体験を挙げ、「解決済み」として処理されたのかエラーとしても記録されていないことだけは確かだ、と述べている。
より根深い問題は、プロジェクトの成否を示す基本的な指標——そのツールが実際に使われているかどうかすら——を計測しないか、操作しやすい指標だけを追う点だ。「大規模なAI生産性向上」を報告するプレスリリースが企業から出続けるなか、筆者が実態を知っている企業の中には、Microsoft Copilotのライセンスを購入しただけで「達成」を宣言しているケースも含まれる。
異端者は撃たれる
批判的な声が封じられていくメカニズムも詳述されている。
500人以上規模の組織では、昇進はもちろん雇用継続のためにも「AIの変革的な力」への信仰告白が求められるようになっている。技術者でない幹部がその先頭に立ち、「AIがすべてを変えている」と断言した直後に「うちは今のところLLMを何にも使っていない」と認めるような場面を筆者は複数回目撃している。極端な例では、年間売上20億ドル超の企業でAI中心の技術戦略を策定した幹部が、ChatGPTを一度も使ったことがないと告白したというケースまで記録されている。
当初、筆者はこれをマーケティング上の戦略だと思っていた。だが実態はもっと深刻で、技術的バックグラウンドのない人々が本心からそれを信じている。嘘をついている人間とは少なくとも非公式には理性的な対話が成立する。真の信者は自己利益による誘導すら効かないため、はるかに扱いが難しい、と筆者は述べる。HashiCorpの共同創業者であるMitchell Hashimotoも、記事冒頭でこう引用されている。
I strongly believe there are entire companies right now under heavy AI psychosis and it's impossible to have rational conversations with them about it.
(「現在、完全にAI精神病に冒されている企業が多数存在し、それについて合理的な会話をすることが不可能だと強く確信している」)
— Mitchell Hashimoto
解雇された人間の話も出てくるが、そこで名前が挙がるのは成果を上げながらもLLMを使わなかった「高パフォーマー」と、AI戦略への懐疑を公言した人々だ。
現場エンジニアの生存戦略
追い詰められた現場のエンジニアがどう動いているかも記録されている。複数のエンジニアが、仕事を従来どおりに完成させながら「Claudeがやった」と報告するという行動——筆者はこれを個人レベルのAI偽装と呼ぶ——を取っていることが報告されている。
さらに奇妙なのが「トークンリーダーボード」だ。LLMの使用トークン数が多いほど評価が高いという制度を導入した企業が存在するという。そこでのエンジニアの対応は明快だった。LLMに自分自身をループ状にプロンプトさせ、自分はNetflixを観る——誰一人として発覚していない、と筆者は記している。計測する指標を間違えれば、組織は自ら最適化の抜け穴を作り出す。これは行動経済学でいう「グッドハートの法則」(指標が目標になった瞬間、それは良い指標でなくなる)の教科書的な事例といえる。
デモが判断力を殺す
筆者のチームがクライアントに対し、Snowflakeの自然言語クエリ機能(Cortex)のデモを見せたことがある。精度は最良の設定でも約92%——10回に1回は誤った数値が出る水準——であり、CFOの財務数字に使えるレベルではないと事前に説明した。それでも、デモを見た顧客は例外なくその機能を購入したがった。
これが「AIデモ効果」の本質だ。動いているように見える映像は、どんな口頭説明よりも強く人の判断を上書きする。人間は確率や統計よりも「目の前で動いた体験」に強く反応する認知的傾向があり、AIデモはその傾向を最大限に利用する形になっている。筆者はこのデモを見せたこと自体を「重大な過ち」と振り返っている。
組織の外にいる者だけが語れる
記事の核心にあるのは、「自分の生活がこの狂気に口裏を合わせることに依存していない」という筆者の立ち位置だ。銀行も、病院も、政府機関も——指揮系統にいる人間はリスクを取って真実を語れない。現場で恐怖と苛立ちを抱えながら生き延びている人々に向けて、「あなたたちはおかしくない」と伝えることが、この記事を書いた動機だと述べている。
個人の観測範囲に基づく告発ではあるが、300回超の対話から積み上げられた証言の重さは、抽象的な統計データにはない説得力を持つ。AIへの期待が組織の意思決定構造そのものを歪めていく現象を、これほど具体的に記録した文章は多くない。
詳細はAI Mania Is Eviscerating Global Decision-Makingを参照していただきたい。