7月17日、The Decoderが「Netflix's 300 AI productions show how fast the technology is spreading through entertainment」と題した記事を公開した。NetflixのCo-CEOが決算説明会で約300タイトルへのAI活用を公式に認め、具体的なコスト・速度の数値を示したことで、エンタメ業界におけるAI普及の実態が改めて浮き彫りになっている。
Netflixが約300作品にAIを導入
NetflixのCo-CEO、テッド・サランドス氏が同社の最新決算説明会で明らかにしたところによると、現在Netflixは約300タイトルの制作でAIを活用している。主な活用領域はポストプロダクション(撮影後の編集・加工工程)だが、コンセプト開発やプリビジュアライゼーション(本番撮影前にCGや絵コンテで映像を仮組みする工程)から納品までのパイプライン全体にわたる。
具体的なユースケースとして挙げられているのが、群衆シーンや歴史的な合戦シーンの拡張だ。予算や撮影日数の制約から従来はカットを余儀なくされていたシーンをAIで補完できるという。このような用途は、制作コストの構造そのものを変えうる可能性を秘めており、Netflixが「実験的な取り組み」としてではなく、通常の制作パイプラインの一部として位置づけていることが、300タイトルという数字からも読み取れる。
「17分のAI映像を半分のコスト・2倍の速度で」
サランドス氏が具体例として挙げたのが、ドキュメンタリーシリーズ「The American Experiment」だ。同作はアメリカの歴史と民主主義の歩みをテーマにしたドキュメンタリーシリーズで、17分のAI支援映像が、通常の半分のコスト・2倍の速度で制作されたという。歴史的映像の再現や再構成にAIを活用したとみられ、ドキュメンタリーという性質上、実在しない映像を補完する用途として機能したと考えられる。
削減されたコストの使途についてサランドス氏は、Netflix全体の年間約200億ドルにのぼる制作予算を圧縮するのではなく、追加コンテンツの制作に充てると述べた。コスト削減を株主への還元や利益拡大に直結させるのではなく、制作量の増強に回すという姿勢は、クリエイター側の懸念を意識した発言とも受け取れる。
AI導入に対するクリエイティブ側の懸念には「優れた作品を作るには優れたアーティストが必要であり、AIはそれを変えない。AIはクリエイターのビジョンを実現するためのより良いツールを提供するものだ」と応じた。
ツール面では、Netflixは映像修復・リストアツールのInterpositive、VFX・バーチャルプロダクション企業のEyelineを活用しているほか、自社のアニメーションラボも運営している。
業界に広がる「Don't Ask, Don't Tell」
Netflixの事例はエンタメ業界全体の動きを反映する一方で、その実態はより複雑だ。2023年のSAG-AFTRA(全米映画俳優組合・テレビラジオアーティスト連盟)のストライキをはじめ、ハリウッドではAIの無断使用や俳優の肖像・音声の学習利用に対する強い反発が続いており、組合側はAI利用に関する明示的な同意と透明性を求めてきた。こうした労使間の緊張を背景に、スタジオ側の公式な立場は慎重なものにとどまっている。
しかし現場の実態は異なるとする証言もある。ByteDanceが開発した動画生成モデル「Seedance」はDisneyキャラクターを高精度で再現できるとして権利侵害の観点から公式に批判を受けているが、『ザ・シンプソンズ』のプロデューサーであるジョエル・クワハラ氏は、そのような批判とは裏腹に「多くのスタジオが舞台裏で静かにAIを使っている」と証言している。つまり、知的財産や労働契約上の問題が公式には指摘されつつも、制作現場ではAIツールの利用が進んでいるという構図だ。クワハラ氏によれば、業界の姿勢は「聞かない、言わない(Don't Ask, Don't Tell)」というアプローチに従っているという。
これは一人のプロデューサーの証言にとどまるが、表向きの慎重姿勢と現場の実態との乖離が存在する可能性を示す声として、業界内では注目されている。
数字が示す普及スピード
- 約300タイトルでAIを活用(Netflix公式発表)
- 「The American Experiment」:AI映像17分、コスト半減・制作速度2倍
- Netflix全体の年間制作予算:約200億ドル(AI導入分は予算削減ではなくコンテンツ増強に活用)
Netflixほどの規模の企業が300タイトルという具体的な数字を公式に開示したことは、エンタメ業界のAI活用が「実験段階」を超えたことを示すひとつの指標といえる。SAG-AFTRAとの労使協議や知的財産をめぐる議論が続く中で、公式な立場と現場の実態のギャップがどこまで続くか、また透明性をめぐる業界の規範がどう形成されていくかは、今後の注目点だ。
詳細はNetflix's 300 AI productions show how fast the technology is spreading through entertainmentを参照していただきたい。