7月15日、Anthropicが「Anthropic commits $10 million to Canadian AI research」と題した記事を公開した。AnthropicがカナダのAI研究機関8機関に対して総額1,000万カナダドルを投資することを発表したものだ。
なぜカナダなのか
現代のディープラーニングブームを支えた基礎研究の多くはカナダ発だ。ニューラルネットワーク研究が広く懐疑視されていた時代、トロント大学やモントリオール大学はその研究を継続したほぼ唯一の機関群であり、アルバータ大学は強化学習の先駆的な研究を進めた。2010年代初頭には、汎用GPU(当時まだ研究用途への転用が始まったばかりだった)を用いた深層ニューラルネットワークの大規模な成功を世界に先駆けて実証したのもカナダの研究機関だった。
Anthropicの解釈可能性研究者として著名なChris Olahは次のように述べている。
「現代のAIの礎となる研究がトロント、モントリオール、エドモントンから生まれた。そして驚くべきことに、AIを安全にすることに最も強くコミットしている研究者の多くも同じ地から出ている。私自身もその文化の中で育った。AnthropicがこのカナダのAI研究の次の章を支援できることを誇りに思う。」
※編集部の考察:Anthropicはモデルの内部動作を解明する「解釈可能性(Interpretability)」研究を中核的な安全研究と位置づけており、Chris Olahはその第一人者だ。カナダの主要研究機関はもともとAI安全・信頼性・公平性に関心が高く、Anthropicの研究方針との親和性が高い。今回の投資はAnthropicにとって単なる市場開拓ではなく、AI安全研究のエコシステムをカナダに根付かせるという戦略的な意図とも読める。
投資の内訳:8機関へのClaudeクレジット提供
今回の1,000万カナダドルは主にClaudeのAPIクレジット提供という形で、以下の8機関に割り当てられる。
- Alberta Machine Intelligence Institute(Amii)(エドモントン):強化学習やAIの信頼・安全性研究、カナダ主要経済セクターへのAI普及に活用
- Mila(モントリオール):世界最大規模の学術的ディープラーニング研究者コミュニティ。責任あるAI・ヘルス・サステナビリティ・マルチエージェントシステム・ロボティクスの研究に加え、研究者が科学的ブレークスルーを発見・評価するためのAIアシスタント開発にも活用
- Vector Institute(トロント):AIの信頼・安全性、ヘルスおよびサイエンス分野の研究推進
- **CHEO(子ども病院)およびCHEO研究所**:小児・青少年・家族の医療アウトカム改善と、小児医療におけるAIの責任ある活用研究
- **CAMH(Centre for Addiction and Mental Health)**:精神疾患の治療予測モデルの開発・評価、精神科AIシステムの公平性評価、多言語メンタルヘルス教育の拡充
- **ラヴァル大学・インテリジェンス&データ研究所**:LLMの多様な文化的文脈での振る舞いの解明、ケベック・フランス語や先住民言語など低リソース言語の研究
- **サスカチュワン大学**:バイオメディカル、食料・水安全保障、公衆衛生、量子コンピューティング、行政サービスの研究
- **トロント大学 Data Sciences Institute**:科学的レビュープロセスを通じた複数研究プロジェクトへのClaude APIクレジット提供
さらに今夏、AmiiとMila、Vector InstituteはAnthropicのスタートアップ支援プログラム「Anthropic for Startups」にも追加される。これらの機関に関連する数百社のカナダのスタートアップが、それぞれ最低5,000米ドル相当のAPIクレジットを受け取る予定だ。
カナダにおけるClaudeの利用状況
Anthropicは今回、カナダにおけるClaude利用動向をまとめたカナダ版ブリーフィングも公開した。2026年3月版のAnthropic Economic Indexをもとにしたもので、プライバシーを保護したうえで実際の利用パターンを分析している。
主な数字は以下のとおりだ。
- カナダはClaude.aiの利用量で世界第8位
- 人口比で見ると、人口規模から予測される利用量の4倍以上を記録
- トップ10カ国のなかで人口当たりの利用率が高いのはアメリカに次いでカナダが2位

世界のClaude.ai利用上位10カ国における利用シェアと人口当たりの採用率(青色がカナダ)
州別では、専門的・科学的・技術的業務の集積度が高い州ほど利用率が高い傾向があり、ブリティッシュコロンビア州が人口当たりの利用率でトップ、オンタリオ州が会話総数では最大となっている。また、英仏二言語規制の影響で翻訳用途が多い州(ニューブランズウィック、ノバスコシア、ケベック)では、翻訳関連の会話が特に多いことも確認されている。
政府機関での活用事例も
記事では、アルバータ州政府の事例も紹介されている。同州の技術・イノベーション省はClaude Codeを用いて州システム全体の4億6,600万行のコードを約20時間でレビューし、その手法を他の政府機関向けに公開した。
Anthropicは、今回の8機関との提携はカナダへの投資の「始まりに過ぎない」としており、研究機関・病院・大学での取り組みを今後も継続的に支援していく方針を示している。
※編集部の考察:OpenAIやGoogleもカナダの研究機関との連携を強化しており、カナダはAI開発の国際的な競争の場となっている。Anthropicにとってこの投資は、AI安全研究を重視する姿勢を対外的に示す意味でも重要なシグナルといえる。
詳細はAnthropic commits $10 million to Canadian AI researchを参照していただきたい。