7月15日、Techstrong.aiが「Apple Eyes Startup's Tech to Run Massive AI Locally on iPhones」と題した記事を公開した。AppleがスタートアップPrismMLの圧縮技術に注目している——その技術は、通常なら54GB超を要する270億パラメータのAIモデルを4GB未満に収め、iPhone 15以降でローカル実行できる状態にするというものだ。クラウドへの依存なしに大規模モデルをエッジで動かせるとすれば、スマートフォンにおけるAI処理の常識を塗り替えかねない技術となる。
54GBのモデルを4GB未満に——PrismMLの圧縮技術
Appleが注目しているのは、カリフォルニア工科大学(Caltech)のスピンオフでKhosla Venturesが出資するスタートアップ、PrismMLだ。
PrismMLは最近、AlibabaのオープンソースモデルQwenの圧縮版を公開した。約54GBあったモデルを4GB未満に圧縮し、270億パラメータのモデルをiPhone 15以降でローカル実行できる状態にした。
技術的な核心は、データの格納方法を根本的に簡略化する点にある。通常のモデルでは各パラメータ(重み)を16ビット浮動小数点数で表現するが、PrismMLはこれを1〜3種類の離散値のみで代替する。この手法は機械学習の文脈では「量子化(Quantization)」の一形態であり、特に重みを少数の整数値(ternary weight:−1・0・+1の3値など)に丸め込む「ternary quantization」に近い考え方だ。精度の損失を許容する代わりに、メモリフットプリントと演算量を劇的に削減できる。PrismMLによれば、この手法により以下の効果が得られるという。
- メモリ使用量:従来比で 10〜15分の1
- 応答速度:6〜8倍高速化
- 消費エネルギー:3〜6分の1
通常8基のGPUを必要とするモデルを1基で動かせるレベルの圧縮率だ。
ただし、CEOのBabak Hassibiも認めているトレードオフがある。圧縮モデルでは全体的な性能が数パーセントポイント低下し、特に事実の再現精度が先に落ちる(推論・数学・コーディング能力への影響はそれより後に現れる)。
なぜ今、Appleはオンデバイスにこだわるのか
AppleとPrismMLの交渉は「初期段階」とされており、Hassibiは交渉が進展していると示唆する発言をしているが、Appleは現時点でコメントを出していない。元記事でも「初期段階(early stage)」という表現が明示されており、合意の見通しについては慎重に受け取る必要がある。
このタイミングには背景がある。AppleはiOS 27でSiriの大幅刷新を発表しており、OpenAIやAnthropicのアシスタントとの競合を意識したオンデバイスAI強化が戦略の軸になっている。
さらに財務的な側面も無視できない。Morgan Stanleyの試算によれば、AppleのDRAMおよびNANDメモリコストは2027会計年度にそれぞれ前年比190%・180%急騰する可能性があり、iPhone 18で200ドル前後の値上げを余儀なくされるリスクがあるという。モデルを小さく保つことは、高価なメモリ増強なしに先進的なAIを搭載するための現実的な手段でもある。
オンデバイス処理のメリットは技術面にも及ぶ。健康・フィットネスなどの個人データをクラウドに送らずに済む点、ネットワーク遅延の排除、クラウドコスト削減、オフライン動作への対応といった点が挙げられる。
専門家の見方:スケールでの実証が課題
Counterpoint ResearchやIDCのアナリストは慎重な姿勢を崩していない。PrismMLの主張が実際に通用するかどうかは、数百万件の同時クエリ、長いプロンプト処理、マルチタスク時のバッテリー消耗といった実環境での検証が必要だ、と指摘している。
また「極端な圧縮がAIハードウェア市場を冷やすか」という点についても議論が続いている。PrismMLの技術によってクラウドのGPU需要が減るかといえば、そう単純ではない。需要がデータセンターからエッジデバイス(スマートフォン等)側に移行するだけで、全体のチップ・メモリ需要は変わらない可能性が高い、とアナリストは見ている。
今後の展開
PrismMLは現時点で圧縮モデルを2種類、無償で公開している。次はGoogleのGemmaを圧縮対象とし、その後さらに大規模なフロンティアモデルへと展開する計画だ。ロボティクスや自律システムへの応用も視野に入れているという。
詳細はApple Eyes Startup's Tech to Run Massive AI Locally on iPhonesを参照していただきたい。