7月15日、CBS Newsが「26 Meta workers sue over alleged AI-aided layoffs targeting employees on medical or family leave」と題した記事を公開した。Metaが導入したAI活用の評価システムが、産休・育休・医療休暇中の社員を構造的に「スコア積み上げ不能」な状態に置き、解雇対象として選別した疑いがある——これが訴訟の核心だ。「アルゴリズムが選んだ」という企業側の論理が、雇用差別の隠れ蓑になりうるかどうかが問われている。
AIが「測定できない」休暇中の社員をふるい落とした?
訴状の核心は、Metaが導入したパフォーマンス評価システムの構造的な問題だ。
Metaは2025年5月から約8,000名(全社員の約10%)の削減を実施すると発表していた。今回の訴訟によれば、同社はキーストローク・活動監視データ、AIトークン使用量ダッシュボード、アルゴリズムを活用したパフォーマンスランキングなどを組み合わせ、解雇対象者を選定したとされる。
問題は、これらの指標が「働いている間にのみ蓄積される」ものである点だ。訴状は「設計上、医療・育児休暇中の社員や障害により出力が低下している社員は、これらのスコアを積み上げることができない」と指摘している。Metaはスコア集計の際に「保護された休暇」を考慮せず、法律が求める「個別かつ休暇・配慮に中立な審査」を実施しなかったという。
26名の内訳と具体的な被害
原告26名は全員が匿名で、それぞれ保護された休暇を取得しているか、障害に対する合理的配慮を申請・受給していた。7月22日に正式な雇用終了が予定されており、現時点では全員がまだMetaに在籍中だ。
内訳を見ると:
- 女性8名:産休または妊娠関連の休暇取得者
- 男性4名:育児休暇取得者
- 女性1名:家族介護のための休暇取得後、忌引き休暇を取得
中でも深刻なのは、「重篤な健康状態と障害」でMetaの自社プロバイダーから承認を受けた休暇を取得しようとした社員のケースだ。訴状によれば、その社員は上司から「休暇を取れば解雇対象に選ばれる」と警告を受け、休暇取得を思いとどまるよう仕向けられたという。Metaは障害に対する配慮も提供しなかったとされる。
原告側弁護士が今回の訴訟で求めているのは「現状維持」、すなわち仲裁手続きが完了するまで雇用を継続させることだ。Metaの雇用契約には仲裁合意(仲裁条項)が含まれており、労働紛争は原則として裁判所ではなく私的な仲裁手続きで解決される仕組みになっている。原告側が「仲裁手続きが完了するまで」という限定的な表現にとどめているのはこのためで、本格的な法廷闘争ではなく、まず雇用終了を差し止めることが当面の目標となっている。その理由として、「雇用終了が確定すれば、妊娠・産後回復・治療中の医療保険喪失、行使期限のある休暇権利の消滅、未確定株式の没収、在留資格への影響など、不可逆的な損害が生じる」と説明している。
問われる法的根拠:「格差的影響(Disparate Impact)」理論
訴状が依拠する法的理論として注目されるのが、「Disparate Impact(格差的影響)」だ。これは1964年公民権法第7編(Title VII)に定められた概念で、「表面上は中立な方針や慣行であっても、特定の保護グループに不均衡な負担を課す場合は差別とみなされる」というものだ。1971年の連邦最高裁判決で認められた由緒ある法理である。
今回の文脈では、「女性は男性より不均衡に多く育児・妊娠関連の休暇を取得するため、アルゴリズムによる選定プロセスが女性に対してより大きな打撃を与える」という主張に用いられている。
日本においても、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が、休業取得を理由とした不利益取扱いを禁止しており、間接差別規制(省令で定める合理的理由のない要件設定)の観点からDisparate Impactと類似した問題が生じうる。AIを用いた評価システムの導入が国内でも広がりつつある中、「表面上中立な指標が休業取得者を不利に扱う」設計は、日本の雇用法制上も同様のリスクをはらんでいる点は、国内のエンジニア・HR担当者が念頭に置くべきだろう。
ただし、現在のトランプ政権はこのDisparate Impact理論の積極的な執行を放棄する方針を打ち出しており、**雇用機会均等委員会(EEOC)**はすでに一部の差別事件の訴追を取り下げている。
それでも今回の訴訟が成立しうる理由がある。労働者は自らEEOCの申し立てを拒否された後でも独自に訴訟を提起でき、さらに複数の州法がDisparate Impact差別を明示的に禁止しているからだ。今回の訴訟は、AI時代においても企業がDisparate Impact訴訟リスクにさらされ続けることを示す事例となっている。
Metaの反論
Metaはこの訴訟に対し、「主張は根拠を欠いており、事実に基づいていない。人員管理や組織決定は、AIではなく人間が行った」と声明を発表した。
エンジニアが押さえておくべきポイント
AIを活用した人事・評価システムの設計において、「休暇中の非稼働期間をどう扱うか」という問題は技術的には軽視されがちだ。しかし今回の訴訟は、そのデザイン上の欠如が法的リスクに直結することを示している。
実装上の観点で言えば、いくつかの具体的な考慮点が浮かぶ。まず、評価期間のウィンドウから保護された休暇期間を除外するか、あるいは休暇前後の稼働データのみを用いて正規化(annualize)する処理が必要になる。キーストローク数やAIトークン使用量のような「活動量ベース」の指標は、稼働日数に対して補正をかけなければ、長期休暇取得者を構造的に不利にする。次に、評価モデルの訓練データに休暇取得者が含まれている場合、そのサンプルが全体に占める割合や属性の偏りをモニタリングし、モデルが特定の保護属性(性別・障害の有無など)と相関したスコアを出力していないかを定期的に監査する仕組みが求められる。いわゆるFairness in MLの実践だ。
「アルゴリズムが決めた」という言い訳は、少なくとも法廷では通用しない可能性がある。設計判断の責任は、最終的にシステムを構築・運用した人間に帰属する——今回の訴訟はその原則を改めて突きつけている。
詳細は26 Meta workers sue over alleged AI-aided layoffs targeting employees on medical or family leaveを参照していただきたい。