7月16日、The Next Webが「South Korea will give all 52 million citizens free AI access, becoming the first G20 nation to do so」と題した記事を公開した。韓国政府が全国民5,200万人に無料・無制限のAIチャットボットを提供する世界初のG20国家施策「AI for Everyone」について詳しく紹介されている。
G20初、国家インフラとしてのAI提供
韓国科学技術情報通信部(Ministry of Science and ICT)は7月13日、全国民5,200万人を対象とした無料・無制限のAIチャットボットおよび公共サービスエージェントの入札を開始した。プログラム名は「AI for Everyone」。これが実現すれば、韓国はAIを公共インフラとして全国民に提供するG20初の国家となる。
入札の応募期間は8月11日まで。2〜3社が選定され、政府から最大512基のNvidia B200 GPUが供与される。ベータ版は9月に開始予定で、年内に正式ローンチを目指す。プログラムの運営期間は2030年まで。
なぜ今、この施策なのか
入札公式文書が明かす背景データが興味深い。韓国国民の3分の2はすでにAIを利用しており、44.5%(約2,300万人)が生成AIを定期的に使用している。しかし大多数が依存するのは海外サービスだ。
2026年4月時点の韓国ユーザー数:
- ChatGPT:2,345万人
- Gemini:845万人
- Claude:241万人
一方、AIサービスに課金しているのはわずか180万人にとどまる。国民がAIを広く使ってはいるが、国産サービスへの流入は限定的で、かつ有料化にも至っていない。
「公共サービス」に仮装した国産AI育成策
この施策の核心は、単なる無料提供ではなく国産AIモデルの市場育成にある。入札条件として、システムの少なくとも50%は国産モデルを使用すること、さらに30%以上を別の国内企業でカバーすることが義務付けられている(※「別の国内企業」とは、主契約者とは異なる国内事業者をサブコントラクターとして参画させることを指すと元記事は説明している)。選定企業は政府のGPU支援に見合う自己資金投入も求められる。
政府はこのAI投資の原資を、SamsungとSK Hynixが生み出す半導体産業の税収から賄っている(関連記事)。半導体という価値チェーンの上流で稼いだ利益を、市民向けサービスという下流に還流させる構造だ。
同施策の背景には政治的文脈もある。5月、副首相がAIの恩恵を広く国民に届けるべきだと発言していた。これはSamsungの労働組合がAI主導の利益分配を求めてストライキを準備していたタイミングと重なる(関連記事)。「AI for Everyone」はその発言を政策として具体化したものだ。
他のG20諸国との比較
記事では「他のいかなるG20政府もこれに匹敵する試みを行っていない」と明記されている。各国の立場を整理すると、対照的な姿勢が浮かび上がる。
EUはAI Actによるリスク規制で先行しており、AI利活用の「ルール整備」を優先する立場だ。米国はOpenAIやAnthropicといった民間企業主導のエコシステムを前提とし、政府が国民向けにAIアクセスを一律保証する発想はとっていない。中国はAI開発への国家投資を強化しているものの、全国民への無料提供という形での制度化には至っていない。韓国の「AI for Everyone」は、これらとは異なる第三の路線——国家がアクセスを保証しつつ、国産産業の育成も同時に図るモデル——として位置づけられる。
このモデルが成立するかどうかは、9月のベータ版の品質と、国産モデルがChatGPTやGeminiといった外資系サービスと比較して実用に耐えるかにかかっている。国民がすでに海外サービスに慣れ親しんでいる以上、品質面での説得力が普及の鍵を握る。
詳細はSouth Korea will give all 52 million citizens free AI access, becoming the first G20 nation to do soを参照していただきたい。