7月16日、The Next Webが「Chai Discovery raises $400M as AI drug discovery booms」と題した記事を公開した。AIを活用した創薬スタートアップChai Discoveryが4億ドル(約580億円)のシリーズCを調達し、評価額が7ヶ月で約3倍の38億ドルに達したことが明らかになった。
7ヶ月で評価額3倍、Chai Discoveryとは何者か
サンフランシスコ拠点のChai Discoveryは、2024年創業という若いスタートアップだ。創業者4名(Joshua Meier、Jack Dent、Matthew McPartlon、Jacques Boitreaud)の出身は、OpenAI、Meta's FAIR lab、Stripeと、AIと大規模システム開発の最前線を渡り歩いてきた顔ぶれである。
今回のシリーズCはIndex VenturesがリードしKleiner Perkins、Sequoia Capital、Dimensionが参加。新規投資家としてBain Capital Ventures、Battery Ventures、Baillie Giffordが名を連ね、既存投資家のOpenAIとThrive Capitalも追加出資した。
資金調達の推移を見ると、その速度が際立つ。
- 2024年12月:1億3,000万ドル調達、評価額13億ドル
- 2025年初頭:シリーズA 7,000万ドル
- 2025年7月:シリーズC 4億ドル調達、評価額38億ドル
2024年12月の調達を起点とした約7ヶ月で累計調達額6億ドル超。7ヶ月前の評価額13億ドルから約3倍という伸びは、投資家の期待が市場予測を追い越していることを示している。
「見つける」から「設計する」へ——Chai-2/3の技術的核心
従来の創薬は、膨大な既存分子ライブラリをスクリーニングし、偶然の産物として候補化合物を見つけ出すアプローチだ。Chaiはこれを根本から覆す。生成AIで抗体やタンパク質をゼロから設計するというアプローチを採用している。
2025年に公開したChai-2は、完全なde novo(デノボ=ゼロから)抗体設計において、事前の学習データなしに(zero-shot)実験室での成功率が2桁台を達成した最初のモデルだとされる。Chaiは旧来の手法と比べて「100倍の改善」と表現している。
続くChai-3は、より結合が難しいターゲットに対してより強固に結合できるよう設計されている。
de novo設計:既存の分子構造を改変するのではなく、目的の機能に向けてゼロから分子を構築するアプローチ。コンピュータ上でターゲットタンパク質の形状や特性を分析し、それに最適な分子を生成する。
Eli Lilly、Pfizer、Novartisが既に採用
研究レベルの話ではない、というのがChai最大のセールスポイントだ。
Chaiは現在、Eli Lilly、Pfizer、Novartisという製薬大手3社にモデルを展開済みとしており、今週は免疫学企業argenxとの協業も発表した。
大手製薬企業が未実証のソフトウェアを採用することは稀で、これだけの顧客基盤は同分野の競合AIスタートアップとの差別化要因になっている。
競合も1,000億円超の資金を抱える激戦区
AI創薬は今、資金が集中する分野だ。主要プレイヤーの調達規模を並べると:
- Isomorphic Labs(Google DeepMindのスピンアウトで、タンパク質構造予測AI「AlphaFold」の知見を創薬へ応用する企業):2025年5月に21億ドル調達、Novartisとも提携
- Xaira Therapeutics:10億ドルで立ち上げ
- Recursion:累計10億ドル超
- ByteDanceもこの分野に参入済み
市場規模の予測は2025年時点で約23.5億ドル、2033年までに137億ドルへの成長が見込まれている。Chaiの評価額の推移は、この予測よりも投資家が前倒しで動いていることを示唆している。
38億ドルの評価額が本当に試しているもの
AIモデルは候補分子を数分で生成できる。しかしその分子が患者に届くまでには、数年間の実験室作業、臨床試験、規制当局の審査が待っている。
Chaiとその競合が賭けているのは「次の医薬品は発見するのではなく、設計される」という命題だ。最初の臨床試験の波を乗り越えたとき、その賭けが正しかったかどうかが明らかになる——38億ドルという評価額は、その問いへの答えを待っている。
詳細はChai Discovery raises $400M as AI drug discovery boomsを参照していただきたい。