7月15日、The Next Webが「DeepSeek IPO looms as it chases a $71bn valuation」と題した記事を公開した。中国のAIラボ・DeepSeekが評価額710億ドルでの新たな資金調達交渉に入り、IPO準備を本格化させているという。外部株主に議決権を与えない異例の出資構造のまま公開企業を目指すこのラボが、投資家から超過申込みを集めている事実は、AI産業における中国勢の台頭を改めて印象づける。
わずか3ヶ月で評価額が7倍に
DeepSeekの評価額の急騰ぶりは、数字を並べるだけで伝わる。
- 4月:外部資本の受け入れ開始時点で約100億ドル
- 数日後:テンセントとアリババが交渉に参加し、200億ドル超へ
- 5月:約450億ドルに達する
- 6月:第1回ラウンドが約500億ドルで完了
- 現在:新ラウンドの協議中で少なくとも710億ドル(480億元以上)が提示されている
6週間で約40%の上昇、4月からの起点で見れば7倍近い評価額となる。
今回の第2ラウンドでDeepSeekが求めている金額については、報道機関によって数字に乖離がある。Bloombergは少なくとも100億元(約15億ドル)と報じる一方、The Informationは目標額を約74億ドルと大幅に高く見積もっている。両者の差は参加投資家の数や交渉の進展段階など、取材時点・情報源の違いによるものとみられるが、現時点では確定的な数字は明らかになっていない。いずれの数字が正確であれ、参加する投資家の数次第では規模がさらに膨らむ可能性もある。
異例の出資構造が「満員御礼」を呼んだ
DeepSeekが6月に完了させた第1回外部ラウンドは、投資家にとって異例の条件だった。議決権と直接の株式を取得できたのは中国国家人工知能産業投資ファンド1社のみ。その他の投資家の資金はリミテッドパートナーシップ(LP)形態——複数の投資家が資金を出し合い、運用の意思決定権は管理者側が握る投資ビークル——で受け入れられ、創業者・梁文鋒(Liang Wenfeng)が管理する。外部投資家には議決権がなく、5年間のロックアップ(売却制限)が課される。
通常であればこの条件では投資家が離れるはずだが、ラウンドは超過申込みで終了したとされる。DeepSeekというブランドと成長軌道への期待が、議決権の不在を上回ったということだ。
IPOのタイムライン
こうした資金調達の加速は、IPOという出口を見据えた動きと連動している。Bloombergの報道によれば、DeepSeekは会計・バンキングアドバイザーと連携し、12月末までに財務諸表を完成させる方向で動いている。これはIPO申請の前提条件となる。上場は早ければ今年末、本命は2027年初頭の見通しだ。
上場先は未確定だが、中国本土または香港が有力視されている。国内ライバルの智普(Zhipu)やMiniMaxはすでに香港に上場済みで、Zhipuの株価は1月の上場初日から約1,600%上昇している。
時期的にOpenAIとも重なる。OpenAIは自社IPOを2027年に延期したばかりで、評価額1兆ドルを目標に据えている。
なぜ投資家は高値を許容するのか
評価額の上昇はバリュエーションの期待だけで支えられているわけではなく、収益の実態が伴いつつある。The Informationによれば、DeepSeekの年換算売上高は最近4億〜5億ドルに達した。モデルへのクラウドアクセス提供が主な収益源だ。
TechCrunchの報道によると、6月時点でDeepSeekはVercel(フロントエンド開発プラットフォーム)のエンタープライズAIゲートウェイ処理トークン数の**約23%**を占め、32%のAnthropicに次ぐ2位につけている。
この地位を築いた土台はオープンソースの推論モデルだ。特筆すべきは、米国の輸出規制によって高性能なNvidia製チップへのアクセスが制限されているにもかかわらず、フロンティアモデルに迫る性能を維持していることで、DeepSeekのクラウドサービスはHuawei製ハードウェアで動作している。収益・実装実績・技術力の三点が揃っていることが、高い評価額を正当化する材料となっている。
「誰にも命令されない創業者」という構造的問い
こうした出資構造と成長の果実を最も享受しているのが、創業者の梁文鋒だ。約78%の持分を維持する彼の資産は、Bloombergビリオネアズ・インデックスによれば約360億ドル(以前は167億ドル)となり、AnthropicのダリオAモデイやOpenAIのグレッグ・ブロックマンを上回る世界最富裕のAI創業者となった。
梁は投資家候補に対し、DeepSeekは短期的な商業化よりも長期的な研究を優先し、汎用人工知能(AGI)を目指しながらオープンソースモデルの公開を続けると説明している。現在の出資構造——外部株主が議決権を持たない——では、その約束を守りやすい。だが、DeepSeekが公開企業として一般株主に説明責任を負う立場になったとき、この方針が維持できるかどうかが、今回のIPOが突きつける本質的な問いとなる。議決権なしの出資を受け入れた投資家たちが、上場後も同様の条件に甘んじるかどうか——その答えは、上場申請書の中に現れるはずだ。
詳細はDeepSeek IPO looms as it chases a $71bn valuationを参照していただきたい。