7月15日、GamingOnLinuxが「Linux creator Linus Torvalds puts foot down on anti-AI comments」と題した記事を公開した。Linuxカーネルの創始者であるLinus Torvaldsが、カーネル開発メーリングリスト上でAI拒絶論者に対して公開反論し、「LinuxはアンチAIプロジェクトではない」と明言した。
「それが不満なら、オープンソースらしくフォークすればいい。あるいはただ去れ」——この一文が、2026年7月時点のLinuxカーネルプロジェクトのAIに対する公式な立場を実質的に定義した。歯に衣着せない発言で知られるTorvaldsだが、今回はAIをめぐるコミュニティの分断に対して、哲学的な原則から踏み込んで語っている点が一際際立つ。
発端:SFCのガイドラインと「Sashiko」をめぐる議論
発端となったのは、フリーソフトウェアの権利擁護団体Software Freedom Conservancy(SFC)が公開した「FOSSコントリビューションにおけるLLMバック生成AIシステム利用時の推奨事項」だ。SFCはGPL違反への対応やフリーソフトウェアの倫理的利用を長年推進してきた団体であり、そのガイドラインはコミュニティ内で一定の影響力を持つ。内容はLLM利用に対して慎重な立場を取るものだった。
このガイドラインがカーネルメーリングリストで話題になったきっかけが、Sashikoというツールの存在だ。SashikoはLLMエージェントを使ってLinuxカーネルへのコード変更を自動レビューするツールで、カーネル開発フローへのAI統合を実験する試みとして注目されていた。このツールの利用をめぐる議論の中で、開発者のLaurent PinchartがSFCのガイドラインへの遵守を提案したことが直接の火種となった。
それに対し、Roman Gushchinが「SFCの推奨事項はLLM全体に対して非常に反AI的な立場に見える。しかしこれはプロジェクトリーダーが決めることであり、私の理解ではLinuxはそのような立場を取っていない」と反論。この流れにTorvaldsが割って入る形で、カーネルメーリングリストに投稿した。
Torvaldsの反論:「AIは明らかに有用なツールだ」
Torvaldsの発言の核心はこうだ。
AIは他のツールと同じ、ひとつのツールだ。そして明らかに有用なツールだ。1年前はそこまで「明らか」ではなかったかもしれないが、今日それはもはや疑問の余地がない。実際に使ったことがある者なら誰でもわかる。
AI批判者に対しては、自省も求めた。
AIの問題点を指摘するなら、同時に鏡を見て自分自身も指差すべきだ。自然知能が常に優れているわけでもない。
TorvaldsはLLMツールの課題も率直に認めている。AIを使って書かれたコードがレビューのためにメンテナーに送られてくることで作業負荷が増える点や、「恥ずかしいバグを見つけ続ける」——すなわちAIが生成・示唆したコードに含まれる明らかな問題をメンテナーが処理し続けなければならない——という痛みは存在すると述べた。ただしその上で、「だから砂に頭を突っ込んで聞こえないふりをするのが解決策ではない」とし、解決策はLLMツールがメンテナーを助けるものになることだとした。
強制ではないという点も明示している。「誰かにAIを使えと強制はしない。しかし他の人が使うのを止めようとする者に対しては、声高に無視する」。
「宗教ではなく技術的メリット」——Torvaldsの一貫した哲学
発言の締めくくりでTorvaldsはLinuxカーネルプロジェクトの根本姿勢を改めて示した。
カーネルプロジェクトはテクノロジーについてのものだ。我々はオープンソースをより良い技術を生み出すために行っている。宗教的な理由からではない。決定は技術的メリットに基づいて行う。新しいツールへの恐怖からではない。
「宗教的な理由ではなく技術的メリット」はTorvaldsが長年繰り返してきた哲学であり、今回の発言はその原則をAIというツールにも一貫して適用したものだ。特定のイデオロギーや団体の方針ではなく、実際に動くコードと技術的判断がすべてである——というLinuxカーネルプロジェクトの文化的な軸が、AI論争においても揺らいでいないことを示した。
カーネルへのコントリビュートを検討しているエンジニアや、LLMツールをカーネル開発フローに組み込もうとしている開発者にとって、今回のメーリングリスト投稿は一次情報に近い指針となる。
詳細はLinux creator Linus Torvalds puts foot down on anti-AI commentsを参照していただきたい。