7月13日、Hassan Mujtabaが「Samsung's 2nm Node Lands Tesla's AI5 Chip at Its Texas Taylor Fab, Silencing Yield Doubters」と題した記事を公開した。Samsung Foundryの2nm歩留まりへの懐疑論が業界内でくすぶり続ける中、TeslaがAI5チップの量産先としてSamsungのテキサス州テイラー工場を選定したことは、単なる製品発表を超えた意味を持つ。TSMCが先端ノードで圧倒的なシェアを誇る状況下で、Samsungが大型AIチップの量産拠点として名乗りを上げた——その現実的な含意をこの記事は丁寧に解説している。
TeslaのAI5チップ、Samsung 2nmでテープアウト完了
Samsung Foundryのシニアエンジニア、Kim Jeong-gon氏がLinkedInに投稿した内容によれば、Tesla-Samsung AI5チップがテープアウト段階に入った。テープアウトとは、チップの設計が完了し、設計図を製造工場に引き渡す工程のことであり、量産フローへの移行を示す重要なマイルストーンだ。同氏は「このチップはテイラー工場で2nmプロセスを使って製造される予定で、まもなくTeslaの最新製品に搭載される」と付け加えている。
テープアウト自体は2026年3月23日〜29日の週(第13週)に行われており、Elon Musk自身もX(旧Twitter)でその成功を発表済みだ。Muskが公開したチップ写真には、中央に大型の演算ダイ(SoC:System on Chip)、その周囲に12枚のDRAMモジュール(SK hynix製)が配置された構成が確認できる。このDRAM配置はNVIDIAのH100が採用するHBM(High Bandwidth Memory)とは異なるアプローチだが、大容量・広帯域のメモリ構成という方向性は共通している。
HW4比40倍という数字の中身
AI5はTeslaの現行自動運転チップ「HW4」の後継として位置づけられるが、自動運転用途に特化したチップではなく、LLM推論をはじめとする大規模AI処理全般を対象とした汎用AI推論チップとして設計されている点が重要だ。Elon Muskが公表しているスペックは以下のとおりだ。
- **AI演算性能:約2,500 TOPS**(Tera Operations Per Second:1秒あたり1兆回の演算処理能力を示す単位。HW4比 8倍の生演算性能)
- メモリ容量:144 GB/チップ(HW4比 9倍)
- 総合性能:HW4比 40倍の改善
アーキテクチャ面では最新のトランスフォーマーエンジンを念頭に設計されており、LLM推論などの大規模AI処理に最適化された構成と見られる。
構成は2種類が予定されている。 シングルSoC構成はNVIDIAのHopper(H100世代)に相当する性能帯を狙い、デュアルSoC構成はBlackwell(B100世代)に対抗しつつ、製造コストと消費電力の大幅削減を目指すという。Musk自身が「Perf/$とPerf/Wでの競争力」に言及しており、Tesla社内用途にとどまらない展開も視野に入れていると読める。
NVIDIAとの競合という観点では、AI5が直接的にデータセンター向けGPU市場を奪いにいくかは現時点で不明だが、Teslaが自社のAIインフラをNVIDIA依存から切り離しつつ、余剰演算能力をクラウド提供する構想を持つことは以前から示唆されている。Muskの「Perf/$とPerf/W」への言及はその文脈で読むべきだろう。
Samsungにとっての意味
AI5の製造はTSMCとSamsungの両方に分散される見込みだが、Samsung 2nmがどの程度の比率を担うかはまだ確定していない。ただし、Samsung Taylor Fabが大型AIチップの量産拠点として採用されたこと自体、同社の2nm歩留まりへの疑念に一定の答えを出す形になった。
Samsungの2nmプロセスをめぐっては業界内で懐疑的な見方が続いていた。TSMCがAppleやNVIDIAといった大口顧客を先端ノードで囲い込む一方、SamsungはGAA(Gate-All-Around)トランジスタ構造を採用した3nmノードの歩留まり改善に苦慮してきた経緯がある。QualcommやAppleが旗艦SoCをTSMCに委託し続けている状況下で、TeslaというEV・AI分野でのブランド力を持つ顧客が実際に量産を決定したことは、Samsung Foundryにとって大きなリファレンスとなる。
量産開始は2026年末から2027年初頭を見込む。
次の一手:AI6とTeraFab
Muskはすでに次世代のAI6チップとDojo3の開発着手を明言している。Dojo3は一度棚上げになっていたスーパーコンピュータプロジェクトだが、2026年1月に計画が再開された。
また、Teslaが構想するTeraFabでは、DRAMやパッケージング、チップ製造を一施設に統合する垂直統合モデルを目指しており、AI5の次世代チップはこの施設での生産移行が計画されている。ただし、TeraFabの正式発表はまだ行われていない。
詳細はSamsung's 2nm Node Lands Tesla's AI5 Chip at Its Texas Taylor Fab, Silencing Yield Doubtersを参照していただきたい。