7月14日、Google Cloudが「Claude at scale on Google Cloud: Frontier AI, built for enterprise production」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicのClaudeをGoogle Cloudのエンタープライズ基盤(Agent Platform)上でスケール運用するための、コスト最適化・エージェント統合・セキュリティの仕組みについて詳しく紹介されている。特にプロンプトキャッシュによる最大90%のコスト削減、150以上の組織で稼働するA2Aプロトコルとの統合は、エンタープライズ導入を検討するエンジニア・アーキテクトにとって注目ポイントとなる。
コストとレイテンシを両立する最適化レイヤー
本番運用において、コストとパフォーマンスは全てのアーキテクチャ判断を左右する。Agent PlatformはClaudeのモデル固有機能とGoogle Cloudのサービングインフラという2つの層を組み合わせる。
Claudeネイティブの機能(追加設定なしで利用可能)
最も注目すべきはプロンプトキャッシュだ。長いシステムプロンプト・法律文書・コードベースなど、共有プレフィックスをキャッシュして再利用することで、リクエストレイテンシを最大80%削減、コストを最大90%削減できるとされている。大量の定型コンテキストを繰り返し送信するエンタープライズ用途では、この効果は無視できない。
その他のClaudeネイティブ機能としては以下がある。
- ストリーミングレスポンス(SSE経由):チャットインターフェースやコーディングアシスタントでの体感レイテンシを低減
- Extended Adaptive Thinking:モデルが内部的に「思考ステップ」を生成してから最終回答を出力する推論モード。複雑な多段階タスクに対して推論の深度を動的に調整し、推論量をユーザーが直接制御することでコスト管理にも活用できる
- 最大100万トークンのコンテキストウィンドウ:Claude Opus 4.6・Sonnet 4.6(いずれも2025年時点のAnthropicフラッグシップ/ミドルティアモデル)以降に対応。長文書分析・大規模コードベース推論・長期マルチターン会話をカバーする
Google Cloudのサービングインフラが追加する機能
- バッチ予測:文書分類・コンテンツモデレーション・一括要約などのオフラインワークロードを低優先度・低コストで非同期処理
- プロビジョンドスループット:ミッションクリティカルなワークロード向けに専用推論キャパシティを予約し、ピーク時も予測可能なパフォーマンスを保証
- 長コンテキストリクエスト向けのメモリ管理・スケジューリング:インフラ層で処理
コンプライアンスを犠牲にしないAI推論基盤
エンタープライズ向けAI導入において最大の障壁の一つが、推論レイヤーのセキュリティだ。プロンプトや補完結果などの機密データがサービングスタック上を流れる推論フェーズは、監査・制御が最も難しい層とされている。
Google CloudのAgent Platform上のClaudeは、この問題に対して既存のGoogle Cloudセキュリティ体系をそのまま継承する形で対応している。具体的には以下の通りだ。
- FedRAMP HighおよびHIPAA準拠:政府機関・医療・金融サービス環境への展開に対応
- VPC Service Controls:Agent Platformリソースへのデータ境界を設定し、データ漏洩を防止
- IAMネイティブなアクセス制御:ClaudeのエンドポイントをGoogle Cloud全体と同一のロール・ポリシーで管理(個別のAPIキー管理・ローテーションが不要)
- Cloud LoggingおよびCloud Monitoring:トークン使用量・エラー率・レイテンシ・クォータ消費のほぼリアルタイム可視化
「コンプライアンスのために使い勝手を犠牲にしない」という点が、この統合の核心にある。既存のGCPコンプライアンス体制を再審査せずに、フロンティアAIを本番運用できるルートを提供している。
推論からエージェントへ:A2Aプロトコルとの統合
Claude推論を提供するインフラはそのままAgent Platformのエージェント層にもつながる。ビルドからデプロイまでのフローは3ステップだ。
- Claudeでビルド:Agent Development Kit(ADK)を使い、Python・Go・Java・TypeScriptのコードファーストで開発。Claude Opus・Sonnet・HaikuをModel Gardenから選択し、Agent RuntimeまたはCloud Run/GKEにデプロイ
- Agent Runtimeへのデプロイ:用途に応じてAgent Runtime、GKE、またはGKE Agent Sandboxを選択
- A2Aプロトコルで相互接続:Agent2Agent(A2A)プロトコルは150以上の組織で稼働しており、ClaudeベースのエージェントがSaaSや他サービスプロバイダーのエージェントにタスクを委譲可能
重要なのは、このエージェント連携が統一IAM配下で完全に監査可能な状態で動作する点だ。エンタープライズのガバナンス要件を維持しながらマルチエージェント構成を組める。
始め方
Agent PlatformコンソールでClaudeをModel Gardenから有効化し、Anthropic Vertex SDKで最初のAPI呼び出しを行うことでスタートできる。たとえばPythonではAnthropicVertexクライアントを初期化してプロジェクトIDとリージョンを指定するだけで、通常のClaude APIと同じインターフェースで呼び出せる。プロンプトキャッシュやプロビジョンドスループットはワークロードの需要に応じて後から追加する形だ。ADKを使ったエージェント構築やA2A統合の具体的な手順については、Vertex AIのエージェント関連ドキュメントも合わせて参照したい。
詳細はClaude at scale on Google Cloud: Frontier AI, built for enterprise productionを参照していただきたい。