7月14日、Casey Newtonが「The loudest warning about AI and jobs yet」と題した記事を公開した。この記事では、200人超の経済学者・AIリーダーらがAIによる雇用破壊リスクへの緊急対応を求める声明を発表したこと、そして現時点のデータが示す「静かな異変」について詳しく紹介されている。
200人超が署名した緊急声明
「We Must Act Now」と題された声明に、経済学者、AIリサーチャー、ノーベル賞受賞者を含む200人以上が署名した。Anthropic、Google、OpenAIの幹部も名を連ねている。声明の全文はシンプルだ:
AIは今後10年で急激に強力になる可能性がある。これは産業革命を上回る前例のない経済変革をもたらしうるが、はるかに短い時間軸で展開される。大規模な雇用喪失といったリスクと、生活水準の大幅な向上といった機会の両方をはらんでいる。経済学者、政策立案者、テクノロジーリーダーは今すぐ行動し、変革的AIの経済学を理解し、AIを人間を補完し社会に利益をもたらす方向に導くためのインセンティブ、ガードレール、制度を構築しなければならない。
声明の注目点は署名者の顔ぶれだ。New York Timesの報道によれば、かつてAIに懐疑的だったMITのDaron Acemoglu(2024年ノーベル経済学賞受賞)とSimon Johnsonも署名している。声明の取りまとめを主導したスタンフォード大学の経済学者Erik Brynjolfssonは「経済学の分野で顕著な変化が起きている」と述べ、「政策立案者とのギャップがまだ大きく、来る津波に備えられないのではないかと懸念している」と語った。
「まだ危機ではない」が、兆候は出ている
Newtonは現在のデータを「わかっていること」と「未解明なこと」に整理している。
わかっていること①:今のところ雇用危機は起きていない
Yale Budget Lab(イェール大学が運営する政策研究センター)が6月に報告したところでは、「職種の構成はAI導入に明確に対応する形ではまだ変化しておらず、AI利用の指標と雇用・失業の変化に相関は見られない」。
わかっていること②:エントリーレベルの雇用がじわじわ侵食されている
Brynjolfssonが関与するスタンフォードのCanaries Dashboard(ADP=大手給与計算サービスのデータに基づく)が2つの数値を示した。「Canaries(炭鉱のカナリア)」とは、かつて炭鉱夫が有毒ガスの検知に使っていた鳥の比喩で、危険の早期兆候を察知するための指標という意味合いを持つ名称だ:
- AIへの「露出度が高い」職種は0.5%縮小、露出度が低い職種は0.2%成長
- キャリア初期の雇用は今年2.7%縮小、中堅(35〜40歳)は1.6%成長
効果量は小さいが、方向性は一致している。この文脈で見ると、一見「良いニュース」に見えるデータも違って見えてくる。元記事によれば、Claude Codeのリリース以降、ソフトウェア開発関連の求人は15%増加した。だがその増加分の71%はシニアレベルの職種だ。企業がジュニアエンジニアにやらせていた仕事をAIに任せ、より上位の職種だけを採用するようになっている構図が透けて見える。
「今すぐ行動」の中身
声明自体に具体的な政策要求は含まれていない。Brynjolfssonが最優先事項として挙げるのは信頼できるデータの整備だ。現状では、異なる指標が矛盾する結論を示しており、AIが実際に雇用喪失に寄与しているかどうかの判断が難しい。
またNewtonは、AIによる生産性向上がまだ計測可能な形で現れていない中で雇用への影響が出ているとすれば、生産性が本格的に上がった後に何が起きるのかという問いは重いと指摘している。
具体的な政策案としては以下が挙げられている:
- 雇用保険制度の抜本的見直しと離職者の転居支援(労働経済学者Kathryn Anne Edwards)
- 賃金保険や若年層採用への企業インセンティブ(Brookings Institution=米国の主要シンクタンクのMolly Kinder)
- AI企業が資金を拠出するソバリン・ウェルス・ファンド(米国内で超党派の支持が形成されつつある)
信号はまだ黄色
Newtonは「AIによる雇用危機はまだ来ていない。だが警告サインは黄色で点滅している」と書く。Wall Street Journalが16人の主要経済学者を対象に行った調査では、半数が「差し引き変化なし」、5人が「純減」、3人だけが「純増」と予測した。中国は1990年代以来初めて、今年の5カ年計画で都市部の雇用数値目標を設定しなかった。
「信号が赤に変わったとき」のための計画を、今のうちに立てておくべきだ——というのがこの声明の核心である。
詳細はThe loudest warning about AI and jobs yetを参照していただきたい。